初めての我儘
末娘の高校入学からしばらく経ち、色々と落ち着いてきていたある日の事……
「今年も来てくれないの!?」
「お、落ち着け千代。何もお前の体育祭だから行かないって訳じゃなくて、店が忙しいだけなんだ?お前なら分かるだろう?」
「でもぉ……でもぉー!」
俺は珍しくその末娘である千代に駄々をこねられていた。
「ほら千代、おじいちゃんが今年も行ってあげるからな?な?」
「やだっ!今年のはお父さんに来て欲しかったのー!」
「千代!いい加減になさい!もう高校生でしょ!」
流石にじたばたと子供のように駄々をこねる訳ではないものの、むっすーっと頬を膨らましながらそう言った後、お母さんにそう言われ、千代はぷいっとそっぽを向く。
そしてこれまで1度もなかった千代のわがままにそれを見て千保はポカンとし、父さんはオロオロとしていた。
なんでここまで千代がわがままを言っているのかというと……
「だって!お父さんとお母さん、小学校二年生の時の運動会から一回も私の学校の奴来てくれないじゃん!運動会だけじゃなくて授業参観とか!」
「うっ……!そ、それはほら、お姉ちゃん達と日が被ってたりしただろう?だからその、本当に仕方なくだな────」
「でも一回くらいは来てくれてもいいじゃん!お姉ちゃん達はともかく、あんなろくでなしの兄とかの時間削れば一回くらい────」
「千代!」
「〜っ!もういい!お父さんなんて嫌い!」
「……私、よーちゃんなだめてくるね」
「はぁ……千保お願いね。私は桜ヶ崎さんと伊部さん、宫神宮さんの家に電話しておきます。もし家出したら行くのは仲の良い娘達の所でしょうし」
「頼んだ……はぁ」
「まぁ、分かっておるとは思うが。これは流石に浩、お前が悪いぞ」
「分かってるよ親父……はぁ」
親父にも言われたが、こうなった原因は千代の様々な親の参加できる行事に親である俺や一恵が全然行けてないからであり、それに千代が耐えきれなくなったのである。
千胡が生まれてからもう二十年近く娘の面倒を見て来たが、何時になっても娘に嫌いと言われるのは堪えるなぁ……
「お前の分かってるは信用ならんからのぉ。ほれ、思いつくだけ原因を言ってみろ」
「……まず千代を雑に扱い過ぎた。その割に頼り過ぎていた。これが原因だろう?」
「そうだ。ワシが代わりに行ってやってはおったが、流石に七年以上あの子の行事の扱いが雑すぎだ。上の子達ばかりに構っておらんできちんと出てやらぬか」
「そればっかりはもう仰る通りです」
「うむ。後店でも頼りすぎだ。それだけに何時も一緒におったからあの子を満足させていたと勘違いしておったのだろう?」
あぁ、そういう事か……
「さて、浩よ。まだ思いつく事はあるか?」
思いつく事……うーむ……
「多分というか……間違いなくあるんだろうが。すまん、分からん。教えてくれ親父」
頭の中に普段俺に懐いて慕ってくれている千代の姿を思い浮かべつつ、何も思いつかなかった俺は、素直に親父へと教えを乞う。
すると親父は立ち上がり、俺の頭に思いっきりゲンコツを落としてきた。
「っつー!」
「素直に聞いた所はまだ許せるが、人に聞く時点で親としては失格だ。今回はこれで済ませてやるから、これからはもっと一恵さんに任せっぱなしじゃなくて弘紀以外の普段にも目を向けろ。いいな?」
「……あぁ、勿論だ」
「よし。それじゃあ手始めにだな……」
大人の男しか居ない居間にて、気難しい女子高生のご機嫌を取るための会議が始まったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます