すれ違い

「普通に考えてさ、順序逆じゃない?」


「分かる」


「確かに」


「叶奈もそう思うぞ!」


 普段ならば授業のあっているお昼前のある時間。

 もう練習も始まっているにも関わらず、私達のクラスは体育祭の出場種目を決める事になっていた。


 そういや、お姉ちゃん達もこの学校だったけど体育祭でどんな事やってたか全然覚えてないなぁ。

 そもそもお父さんお母さん、それにおじいちゃんが見に行くからその間店番してたりお留守番してたりしてたから、覚えてないのも仕方ないっちゃないんだけどね。


「で、改めて軽く話し合ってその後挙手して決定するって話だけど……みんなはどうする?」


 一応一人二つは選ぶ必要があるって話だからね。


「叶奈はシュバって走りたいから百メートルに出たいぞ!あとはー……そう!たんきけっせんってやつだな!」


「私はー…………んー……あんまり目立ちたくないし、大玉転がしとか玉投げみたいな団体競技がいいなぁ。礼二君は?」


「そこで俺に振るのか!?」


「礼二ー、逃げんじゃねぇぞー」「ハッキリ言ってやれー」「男が廃るぞー」「舐められたままでいいのかー」


「うっせぇよ!っつぁ〜……!あれだよ、あれ。そのー……団対抗のバトンと……二人三脚」


「「「「おぉー」」」」


 男子グループで話していた礼二に綺月ちゃんがそう話を振ると、何故か男子から上がったそのコールに、礼二が恥ずかしがりながらもそう答える。

 すると教室のあちこちからそんな感心したような声が上がる。

 何故感心した様な声が上がったかというと、団対抗のバトンリレーは言わずもがな目立つ種目であるものの、この二人三脚、実は男女一組で行われる競技なのである。

 つまりこの競技に出る事が何を示すかというと……


 礼二……好きな人いるんだ!


 と、言う事なのである。


「それで?千代ちゃんは?」


「え?うーんそうだなぁ……」


 目玉になる大型競技の三つは私が実況することになってるんだけど、それを除いて私の体力がもつ奴だと……


「障害物競走に……後は短距離物かなぁ……って私のことはどうでもいいでしょ!今は礼二の────」


「よーしお前ら席に戻れー。んじゃ種目名言っていくから出たい奴に手ぇ上げてけー」


 先生にそう言われ、私達は席に戻ったあとそれぞれの出たい種目に手を上げていく。

 タイミングが悪く礼二の好きな人は聞く事が出来なかったものの、どうやらこっちの運はよかったらしく、競技の方は希望通り障害物競走に決まったものの……


「よし、それじゃあ余った花宮は桜ヶ崎と一緒に二人三脚だ」


 他の希望競技は尽くジャンケンに負けて逃してしまい、礼二と一緒の二人三脚に出る事になってしまったのであった。

 やっぱり運が悪かったのかもしれない。


 ーーーーーーーーーー


「それじゃあまた明日なー!」


「うん。叶奈ちゃんまた明日ねー。はぁ……ごめんね礼二。好きな人と一緒に走りたかっただろうに、私なんかと一緒になっちゃって」


 学校が終わり街に戻り、いつも通り礼二と二人だけになった所で、私は申し訳なさそうにそう謝る。


「ん?あぁ、二人三脚の事か」


「うん。本当にごめんね?」


「なんで謝るんだよ。俺はお前の事好きだぞ」


 好きって言って貰えるなんて嬉しいなぁ。

 でも私が言ってるのはそういう好きじゃなくて、恋愛感情的な好きなんだけどね


「ありがとね。よし!もう決まっちゃったんだしウジウジしててもダメだね!私、頑張るから!じゃあね礼二!」


「……あぁ、またな」


 いつも通り手をヒラヒラと振りながら、家の前で別れた礼二の顔はどことなく不服そうな、しかしながら怒っているような、そんな初めて見る表情を浮かべていた。

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