お姉ちゃん達

「うわー!まぁじで可愛いじゃん!次アタシに抱っこさせてよー!」


「えー。もうちょっと私にも堪能させてよー。はぁ、ちっちゃいし可愛いし……しかもお肌はぷにぷにすべすべで髪の毛はサラサラつやつやでいつまでも触ってたーい」


「んにぃぃぃ……」


 どうして……どうしてこうなった……


「ふふふっ。二人共、あんまり抱きつくと千代ちゃんに怒られちゃうわよー?」


「「はーい」」


 人の多い街の一角、千胡お姉ちゃんに連れられてきたお店の一角で、私はほっぺや手のひらを優しそうなお姉さんにむにむにとやられる様子をちょっとチャラそうな茶髪のお姉さんが羨ましそうに見るという、よく分からない状況に置かれていた。


「さて、それじゃあみんな集まって二人も満足した事だろうし、そろそろお買い物行こっか!」


「まだアタシ千代ちゃん堪能出来てないんですけどぉ」


「まぁまぁ、後で瑞希がやっていいから。ね?」


「約束だかんなサトー」


 私自身の権利が私自身にない件について。

 まぁ、お姉ちゃんが楽しそうだからいいんだけどね。


 潔く諦めながら、私は右手も左手もお姉ちゃんのお友達に繋がれながら目的地へと向かう途中、私はどうしてこうなったのかを思い出していた。


 ーーーーーーーーーー


 コンコンコンっ。


「はーい」


「遊びに来たよっ!おねーちゃん!」


「あら〜♪千代ちゃんいらっしゃい!遠いとこからお疲れ様、さぁ上がってちょうだい」


「うん!」


 合宿が終わって数週間後の五月も始まり次に待ち構えるは体育祭というある日の事、私はゴールデンウィークにかこつけて千胡お姉ちゃんの家へとお泊まりに来ていた。


 いやぁ地味に千胡お姉ちゃんの家に遊びに来るのは初めてだったし、危うく迷子になりかけたよ。流石大都会……さてさて、どんな感じになってるのかな?

 いやぁー、お姉ちゃんうちに居た頃は兄と同じ部屋だったから小物とか、そういうの持ってても捨てられるって行ってたし、その反動で案外凄く可愛くなってたり?

 でも一人暮らししてると結構汚くなったりとか────


「っておぉー!意外と綺麗!そしてものが無い!」


「いやぁー、いざ自由にしていいってなった後色々置いたりしてみたんだけどね、やっぱり変に色々置くと落ち着か無くてさ…………というか意外とって何よ!意外とって!」


「んむぁぁ!ほめん!ほめんってはぁ!ふひぃ……ん?あっ!私のぬいぐるみまだ持っててくれてたの?」


「そりゃあ当たり前だよー。大切な妹が独り立ちする時に私にくれた、手作りの私と千代ちゃんのぬいぐるみだもん。捨てる訳無いじゃない」


「お姉ちゃん……嬉しいんだけど私を抱っこするのはやめてくれない?動けない」


「あらごめんなさい。ついいつもの癖で」


「ったくもー」


 せっかく素直にお礼言えるチャンスだったのに。


 ようやくお姉ちゃんの抱っこから解放された私は、ほっぺを膨らましながらも、ぬいぐるみを大切にしてくれていた嬉しさで上機嫌にお泊まりの準備を進める。


「よーし準備完了ー。えへへっ、今日はお姉ちゃんと一緒に寝るんだぁ〜♪」


「ほんっと可愛いなぁこの子は。さて、夜までまだ時間あるし、千代ちゃんお出かけしよっか。高校デビューして色々物入りだろうし、ちょっと大人のお買い物をね」


「おぉ!」


 大人のお買い物!高校デビュー!

 家がお店だから仕方ないとはいえ、こういう大都会に来る事なんて全く無かったし、私の場合生まれてからお下がりばっかりで〜〜デビューっていう、女の子っぽい買い物はした事なかったし、どんな買い物なのか楽しみだ!


「しかも今日は心強い助っ人も居るからね!」


「おぉぉ!」


 助っ人!お姉ちゃんのお友達とかかな?


「よし!それじゃあお姉ちゃんちょっとお化粧してくるから、千代ちゃんちょこっとだけ待っててね」


「お化粧かぁ……お姉ちゃんお姉ちゃん、お化粧するとこ見ててもいい?」


 流石にもう高校生だしね、女なんだからいつまでも男だーって意地張ってても仕方ないし、こういうのも覚えれる機会に覚えていかなきゃ。


「お、とうとうあの千代ちゃんもお化粧に興味が出たかぁ。あんなに可愛いもの好きなくせに女の子ーっていうのが嫌いだった千代ちゃんが」


「うるさいなぁ……ほら、早く準備してよ」


「はいはい」


 ーーーーーーーーーー


 と言うことがあり、今に至るのであった。


「あ、でも私そんなにお金ないんだけど……」


「大丈夫!お姉ちゃん、この日の為にいっぱい働いてお金貯めたから!」


「妹が来るんだーってウェイトレス頑張ってたもんねー」


「授業中居眠りしちゃうくらいねー」


 ウェイトレス?お姉ちゃんのバイトかな?


「ちょっ!二人共言わないでよー!」


「「えへへへへぇ〜」」


「まぁ、そういう事だから。今日はお金全部使い切るくらい千代ちゃんとお買い物するぞー!」


「えぇっ!?」


 そんな私の驚く声と共に、目的地であるオシャレ街へと到達した事でお姉ちゃん方による私の高校デビューコーデが始まったのであった。

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