今日のお相手

「ん……んん……ふぁぁ……」


 全身に染み込むような、山の朝特有の冷たさで目を覚ました私は、暫くモゾモゾと布団の中で過ごした後に起き上がると、キョロキョロと様々な体勢の女子達が何十人も眠っている部屋を見渡す。


 おぉ、あっちもこっちもお腹や付け根まで生足を出してる女子ばっかりだ……目に悪いったらありゃしない。

 私の精神年齢がおじさんだから良かったものの、健全な男児、それも男子高校生なら絶対に手を出しかねない状況だなぁこれは。


 女の子になってはや十五年、女の子に夢見ていた事は尽く無くなったけども、こういう状態を見ると少しは落胆しちゃう辺り、私もまだまだ男を捨てられて無いって事か。


「さてさて。それじゃあ今日も早い事ですし、寝巻き用の体操服からさっさと着替えるとしますか」


 ま、体操服って言ってもブルマなんだけどね。

 最初はあれだったけど今はもう……って言う程慣れては無いかな。見た目は下着同然だし、パンツははみ出る事もあるし、はぁ……恥ずかしいったらありゃしない。


「どうしてこんな服が普及したのやら……」


 確か前世の時にバレーボールで普及したとかなんとか聞いたけど、別にバレーボールは関係無かったみたいだし、原因はメーカーと中体連の癒着とかなのかな?


「ま、一個人の私じゃ知るよしも無いし、女の子の私は大人しく学校指定のこのブルマを着ることにしますよっと」


 ぶつくさとそう呟きながら、私はまだ時々あちこちでもぞりと動く程度の女子部屋の中、さっさと着替えを済ませるのであった。


 ーーーーーーーーーー


「いやぁー、にしても昨日のちよよんは凄かったなぁ。「ふ、二人共……怖い、怖いから一緒のお布団でねよ?ね?」だなんて、普段のちよよんからは考えられないぞー」


「ねー。ただでさえちっちゃくて可愛いんだから、普段からそれくらいでいればもっと可愛いのに」


「うるさい。昨日はその、ほんの、ほんのちょっとだけ夜の森の肝試しが怖かったからだもん。もうあんな事しないから」


 ぷくぅと頬を膨らましながら、あの後ほぼ最後に目を覚まし身支度と軽いスキンケアなんかを済ませた二人と合流した私は、大きな食堂で朝食を食べていた。


「なら次のお泊まり会の時、寝る前に怖い話しよう!」


「えっ」


「それはいいねー。夏も近いし、きっといい涼みになるよ!ついでにお布団も別々にすれば涼しさも完璧ね。千代ちゃんもそれでいい?」


 そ、そそそっ、それくらいの事で俺がっ、この俺がくくく、屈するとでも!


「や、やだぁ。怖い話するならせめてお布団一緒じゃなきゃやぁ……」


「しないしない、せっかくのお泊まりで千代ちゃんと別々なの私だってやだもん。叶奈ちゃんもだよねー?」


「うむ、ちよよんは柔らかいしちっちゃいしで抱き枕にちょうどいいんだぞ!」


「うんうん。だからお布団は一緒だよー」


 ほっ……良かったぁー……ってあれ?


「怖い話はする流れなの?ちょっ、二人共静かになんないでよ!ねぇ、ねぇってばー!」


「ったく、朝からお前らは騒がしいなぁ」


 思わず色んな素が出てきてしまいつつも、二人に慰めて貰った俺がそう黙りを決め込んでいる二人に訪ねていると、呆れ顔で朝食を持ちながらこっちに来た礼二にそう突っ込まれる。


「れっ、れーじー!二人が意地悪してくるー!」


「はいはい。二人共そこら辺にしといてやってくれよ?」


「「はーい」」


「んで、その様子だと千代は昨日の肝試しを全力で楽しめたらしいな」


「っー!礼二きらいっ!」


「ちょっ、悪かった、悪かったって!そ、そうだ!お前ら班だろ?今日の登山どの班と行くか決めたのか?」


「いや、まだだけど」


「男女一班づつで班を組んで頂上まで、忘れた訳じゃないだろう?どうすんだよお前ら」


「どうするって……ねぇ?」


「当たり前の事を聞かれてもだぞ」


「うんうん」


 礼二に今日の登山で組む班をどうするのかと話を振られ、互いに見つめ合った私達三人はそう確認し合うと、当然だろうという顔で礼二の方へと向き直ると────


「礼二達の班にお願いするつもりだったけど?都合悪かった?」


「い、いや!そんな事は無いぞ!というか、出来ることならこっちからお願いをー……ってあっ」


「にやにや」「にやにやぁー」「にやにやだぞー」


「ちょっ、あーもう!とにかく!俺らは大丈夫だから、班員には俺から伝えとくぞ!」


「ん、おねがーい」


「頼んだぞれーたろー!」


「皆によろしくねー」


 私達ににやにやされながら煽られたせいか、ガチャガチャとすごい勢いで朝食を食べ終えた礼二にそう言いながら、私達は礼二を送り出したのであった。

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