持っているもの
私が高校へ入学してから数日後、いよいよ本格的に授業が始まろうとしてたある日の夕方の事────
「……」
「やぁ!花宮さんっ!元気にしてたー?」
「……なんで」
「ん?」
「なんで貴女が居るんですか美代先生っ!」
私は職員棟との連絡通路にて、小学生からお世話になり、中学生ではお世話した、ほんの一年前に高校の教員免許を取得した美代先生を前にそう叫んでいた。
「なんでって……そりゃあ今年からこの学校で働く事になったもの」
「はい?今……なんと?」
この学校で働くって?
「だからこの学校で今年から私も働くのよー!夢の高校教師として!」
うわぁぁぁ、聞き間違いじゃ……聞き間違いじゃなかったぁぁ……!
「ひゃっ、百歩……百歩譲って先生がここで働くとしても、アレですよね?事務員とか、そんな感じの所でですよね?ね?……ね!?」
「は、花宮さん近い近い!それに、なんでそう思ったか知らないけど私は現文の教師だし、花宮さんの組の副担だからねっ!」
「…………はいぃ!?」
そ、そういや確かにうちのクラスの副担風邪とかなんとかで昨日まで休みって……
「はふぅー」
「ちょっ、花宮さん!?花宮さん?!」
ぐいっと低い背ながらも詰め寄り、美代先生にそう問いただしていた私は先生からの回答を聞き、そのままフラフラーっと倒れてしまったのであった。
そして数時間後────
ーーーーーーーーーー
「……っと言うことがありまして」
「あははははっ。それで今の今まで気を失ってて部活に遅れちゃったってわけか」
「はいぃ……」
部活の時間も終わりに差し掛かる頃、ようやっと保健室で目を覚ました私は、一応小鳥遊先輩に挨拶だけはしとくべきだと帰る前に部室へと来ていた。
「でもそんな倒れるくらいその先生と何かあったの?もしかしてとんでもない先生だったり!?」
「いや、別にそこまでとんでもない先生って訳でもないし、普段は優しいいい人なんですけど……」
「ですけど?」
「ポンコツなんですよ……!ほぼ毎年毎年卒業式とか入学式の言葉を代わりに考えてあげたり……とにかくたっくさん面倒見させられてるんですよ!」
「おぉぅ……苦労してるんだねぇ。まぁ、大なり小なりはあれど千代ちゃんも花宮さん家の人なんだねぇ」
「えっ、なんかそれすっごい不名誉な気がするんですけど」
「だって、ねぇ?」
「ねぇ?ってなんですか!ねぇ?って!」
「いやぁだって、千胡さんは生徒会長だったし、千保さんはあの漫研の部長さんだし……千代ちゃんが何か持っててもおかしくはないよー」
「いやだぁ……そんなの持ってたくないぃ……!」
「いやぁ、もう無理だと思うなぁ」
「いぃやぁだぁー……」
こうして、私の高校デビューは最初の方から大きく躓いてしまうのだった。
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