この学校の部活事情

「ほらっ!ここ座って座って!」


「えーっとー……」


「はいっ!お茶とお菓子!」


「そのー……」


「他にも欲しいものあったら言ってねっ!」


「あの……」


「ん?何かな?」


「何やってるんですか?先輩」


 教室の前でぶつかったあの後、ひょこひょこひょことポニテを縛る小さなバニー風シュシュが可愛らしい、ニコニコ笑顔の先輩に私は至れり尽くせりともてなされていた。


「そりゃあだってこの家庭科部に入ってくれる新しい子なんだもん!精一杯おもてなしするよ!」


 うわぁー盛大に勘違いされてるよコレ……どうしよう、家庭科部なんて入る気サラサラなかったんだけど……

 とにかく!これ以上流されてても強制入部って道しかないし、この先輩には申し訳ないけれどここはビシッと言わせてもらおう!


「いやぁー!こんなに可愛らしい子が来てくれてこれで我が部も安た────」


「先輩ごめんなさいっ!私っ、ここには迷って来ただけで、家庭科部に入る気はないんです!」


「……え?い、今なんだって……?」


「私!家庭科部!入る気!ないんです!」


「そん……な……」


 私のその言葉を聞き、ガックリと絶望した表情を浮かべ、四つん這いに倒れ込む先輩を前に、そんな絶望に先輩を叩き込んだ私は、張本人ながはも胸を痛める。


「一応……事情だけはお聞きしますけど、何かあったんですか?」


「うぅぅ〜……聞いてくれるの?」


 まぁあんなにおもてなしを全力……というか今になって思えば必死にやってればなぁ。


「はい、ここに来たのも何かの縁でしょうし、聞くだけなら」


「天使っ!その調子で家庭科部にも入ってくれない?」


「それは聞いてみない事には」


 ま、これくらいはしてあげないとね。一応おもてなしは受けたんだし。


「ぐぬぬぬぬー……あ、所で聞きそびれてたけど、貴女のお名前は?」


「そういやまだでしたね、私は花宮千代です」


「千代ちゃんって言うんだ!可愛い名前だねぇ〜♪私は小鳥遊沙苗って言うんだー。よろしくねっ!」


「はい!こちらこそよろしくお願いしますっ!」


 こうして私は、叶奈ちゃんとはまた違った元気が可愛らしい沙苗先輩と知り合い、この家庭科部が抱える問題について知る事になったのであった。

 そう、その問題とは────


「部員が先輩しか居なくて消滅の危機ぃ?」


「そうなのー!」


「いやどうしてそうなったんですかっ!」


 この学校、ここらだとあのお嬢様学校の女子高除けば唯一の高校だろ!?一学年十五組はあるのになんでそんなに人居ないんだよっ!


「だってぇー!私以外の部員ちゃん、全員他の部活に引き抜かれちゃったんだもんっ!私悪くないっ!」


「引き抜きってなんだ引き抜きって!部活動の引き抜きって初めて聞いたよそんなの!」


 というかこの二度目の人生のお話はほのぼの系だろぉぉお?!


「ふっふっふっ、新入生のよーちゃんは知るまい!」


「うわぁっ?!千保お姉ちゃんいつからっ!というか胸を揉むなっ!」


「花宮先輩っ?!」


「やぁやぁ元気にしてたかねサナちゃん。とりあえず可愛い可愛い妹のよーちゃんに説明させてね?」


 突如私の背後から現れた千保お姉ちゃんに、俺は沙苗先輩と一緒に驚かされながらも、何時も家でやっているようにぐいーっと胸を揉みしだいている姉を引き離す。


「説明って……その引き抜きのやつ?」


「そっ!今この学校ではね、部活動待遇貰おうと色んな部活が生徒の引き抜きをしてるんだ」


「部活待遇っていうと……確か赤点緩和とかだっけ?」


「そうそう!部活動に力入れてる学校とはいえ、正直悪手だよねぇ」


 人間は楽な方楽な方に逃げる生き物だけれど……単純に人数の多さで部活動待遇決めるのはお姉ちゃんが言う通り悪手だし、管理を楽しようとしてる学校側にも問題あるよなぁ。


「令和じゃ考えらんないね」


 まぁ、学園モノとかにあるテッペン取るぜ!みたいな理由で取り合いしてる訳じゃなくて良かったや。


「?」


「おっと。というかお姉ちゃん、そろそろ教室戻んないとサボってるのバレるんじゃない?」


「ギクッ!そっ、それじゃあよーちゃん!また帰る時にあおーう!」


 ガラガラガラ……バタン!


「ったくあの人は……先輩も面倒な事に巻き込まれてるんですね」


「あはははは……でもまさか千代ちゃんがあの花宮先輩の妹さんだとは」


「……?あの花宮先輩?」


「あれ?千代ちゃん知らないの?あの人こそ今一番大きい部活、漫研の部長さんだよ?」


「はぁっ?!」


 初耳なんですけど!というか……どうりで、高校受験で勉強やら面接対策の一人称矯正中に高校二年だったあの姉が私に勉強習いに来なかった訳だ。

 やっと納得がいった。


「はぁ……仕方ない、不本意ではあるけれど、このまま何もしないのはお姉ちゃんの為にならないし、何より……」


 バカ姉のせいでこういう部活が増えるのは何とか阻止したいからね。


「小鳥遊先輩」


「ん?何かな?」


「私、家庭科部入りますよ」


「えっ!?」


「もとより料理とか裁縫は趣味でやってますから楽しめそうですし、それに何より姉の尻拭いをするのが妹の役目ですから。申し訳ないですが先輩にも手伝って貰っても?」


「────っ!うんっ!ありがとう、千代ちゃんっ!」


 こうして、私は十数年の帰宅部歴に終止符を打ち、家庭科部に入部する事となったのであった。

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