帰宅部と部活動

 花宮千代は帰宅部である。

 それもただの帰宅部ではなく、前世の小中高大、そして今世の小中と続く約三十年物の生粋の帰宅部である。


「んまぁ……そんな生粋な帰宅部なのにこういったイベントにワクワクしちゃうって事は、やっぱり精神は体に合わせて変わるんだろうなぁ……んぐっ」


 二人と別れて数分後、あちこちウロウロとしていた私は、本当に小さい身長が災いしたのか相変わらずおしくらまんじゅうにされながらも、そんなワクワクに笑顔でいた。


 にしてもやっぱ凄いなぁ……前世も今世も今までの学校は尽く田舎だっただけあってそんなに部活なかったけど、バスで一時間半、街の学校なだけあって部活の種類が凄い。


「運動部には野球サッカーソフトにテニス、陸上空手弓術剣道相撲に水泳、なんでもあったもん」


 しかも夏場どうしてるのか知らないけどスキー部なんてのもあったし。


「で、更に文化部で化学生物地学物理の理系部に放送新聞のメディア、将棋に囲碁にカルタと来て美術演劇写真に文芸漫研!しかも華道茶道に合唱と吹奏楽までついてきた!」


 絶対文系の部活コンプしてるよこの学校、やばいでしょ。


「まぁだからこそ小中って地味に運動部だった礼二が興味を持つような、写真部っていう文系の部活があったんだろうなぁ……」


 で、そんな事言っとる私は未だにコレっていうのが無いわけですが、果てさてどうしたものか。


「前世で理系の地学部だった友達は発表の資料作りとか、採掘とかで死ぬ程苦労してたし、放課後まで頭使いたくないからパス」


 かと言って少し絵が書けるくらいで漫研ってのもアレだし、そもそも疲れるだろうから行きたくない……というかそもそも時間に追われるようなやつが合わないんだろうな。


「となるとそもそも運動部は無理だから候補は茶道と華道、もしくは礼二と同じ写真部か…………うーん……なんかパッと来ないなぁ……んぎゅっ」


 ……とにかく、このままウロウロしてても仕方ないし、とりあえず人混みから離脱して考えることにしよう。うん。


 流石に気分は浮ついていてもこの状況下に居続けるのは肉体的にもきついものがあり、私はそう考えるととりあえず人混みから抜けようと足掻き、何とか脱出する。


「ふぃー……何とか脱出出来たぞ」


 高校になれば人が格段に増えるのは分かってたけど、人混みの中で本当に一緒の人が居ないだけでもみくちゃ度合いが更に上がるとは……低身長は辛いよ。


「それで、一体ここはどこなんでしょうかねぇ?割と学校の隅の方っぽいけれど……」


 あの建物への連絡通路っぽいけれど多分ここ中庭かな?屋根はあるけど思いっきり外だし、一体何の建物に繋がってるんだろ?


「ちょっと先に行ってみるかな?」


 学校案内は明日だし、事前に情報を仕入れるって意味でも行ってて損は無いはず。


「っと、曲がった所に入口あったね。えーっと何何……家庭科室?」


 確かに理科系の部屋は理科棟に、美術系は東棟、教室も一年棟二年棟三年棟、それに職員棟みたいに別れてたけど、まさか家庭科室がこんな辺ぴな場所にあるなんて……


「良く言えばきちんと区分けされてる、悪く言えば散らばり過ぎてる学校だなぁほんと……というか、色々部活募集してたのに家庭科部みたいなのは見てないなぁ」


 こういう高校が舞台のアニメとか漫画ならありそうなもんだけど……やっぱりこの時代には流石にまだそんなのなかったのかな?


 そんな事を思いながら、私は背後のひしめき合う人混みを一瞥した後、前を向き直し家庭科室の入口である引き戸に手をかけようとし────


「まぁここまで来たんだし、せっかくだから少しくらい中を覗いて────」


 ガラッ!


「もっ!」


「うぬぉっ!?」


 中から急に飛び出してきた、肩くらいまである髪をポニーテールにした、活発そうな人の胸に思いっきり顔を埋めてしまう。

 しかし少し小さかったのかその素敵なエアバックでもぶつかった勢いは殺しきれず、そのまま弾かれたように私とその女子生徒は廊下に尻もちを着く、そして……


「あいったたたー……人が居るなんて珍しいなぁ……一体誰……が……」


「いっつつー……あっ!」


 緑のリボン!って事はこの人二年の先輩だ!


「ごっ!ごめんなさいっ!扉の前に立っててぶつかっちゃって……先輩?」


 どうしたんだろ……?なんか反応が……


「ねぇ貴女っ!」


「ひゃいっ!ごめんなさいっ!私が悪かったですから────」


「家庭科部に入りに来てくれた新入生さんかなぁ!?」


「……はい?」


 その二年の先輩に、私は手をギュッと握られながら満面の笑みでそう言われたのであった。

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