「私」が生まれ育った街
「ふぁー……んんぅー……」
あったかくてほわほわで……この時期のお昼は眠くなるなぁ。
「あら千代、丁度よかったわ」
「ふぇ?」
「お母さん買い物行かないと行けないんだけれど、ちょっと忙しくてね。代わりにお買い物行ってくれないかしら?」
春休みも最後の週、縁側で日向ぼっこをしてぽわぽわとなっていた俺は、母様にそう頼まれながら拒否権は無いとばかりにバックとお財布、そしてメモを押し付けられていた。
完全にもうお昼寝気分だったけど、こうなったら仕方ない。最近ちょっと、ほんのちょっとだけ体重増えたし、運動がてら買い物ついでに散歩してこよっかな。
「ん、わかったー。ついでに軽い運動がてら散歩して来るからちょっと遅くなるかも」
「運動はいい事ですね。気をつけて行ってくるんですよ」
「はーい」
ーーーーーーーーーー
さて、とりあえず家を出たはいいものの。買い物してウロウロするのとウロウロして買い物するの、どっちの方がいいかなぁ……
「運動するなら前者だけど、あちこち行くんなら後者だよなぁ」
俺の住む川に沿って縦に長い街のほぼ中央部、川が目の前にある春は桜で満開になるこの街では一番の立地にある俺の家こと花宮家から出た俺は、そう数秒悩んだ後どうするかを決める。
「よし、先に軽くお散歩してからにしよう」
そうと決まればどこに行くか……とりあえず綺月ちゃんとこの神社にでも行こっかな?
「距離的にも悪くないし、そのまま北参道で降りていけばいい具合に回れるし……うん、そのルールで行こっと」
そうしてルートを決めた俺は、下流にある市場とは反対の上流の方である東の方へと歩き始める。
そしてそのまま川沿いに暫く歩いていくと、段々と民家が減ってくる代わりに田んぼや畑などが増え始め、少し外れの方の森の中にこんもりとした小さな山が見え始める。
「つーいったついたっ、いやぁやっぱりここの景色はいいねぇ。多すぎず少な過ぎず、これくらいの木の量が一番雰囲気出て丁度いいよね。っとと、せっかく神社に来たんだし、お参りもして行こっと」
千胡お姉ちゃんが無事に楽しく大学生活を謳歌出来ますようにー……っと。
「こんなもんでいいでしょう!裏手の方にお花畑あるけれど……今日はそっちの方はいいか」
あんまり気軽に立ち入っていいような場所でも無いと思うしね。
「うし!それじゃあ次々ー!」
ーーーーーーーーーー
「んーいつ見ても北側は豪華絢爛な大きい建物ばっかりだ」
確かに見慣れちゃ居るけれどでっかい物とか凄いものは素直にそう思っちゃうってもんだ。
「お!ちよよんだ!なにしてるんだー?」
「あ、叶奈ちゃん。ちょっとお散歩してる所だよー。というかなんちゅー場所から話しかけてるのさ」
「窓からチラッとちよよんが見えたからだぞ!」
やっぱ叶奈ちゃん行動力すげぇわほんと。
神社から北参道を使って山を下った俺は、そのまま橋を渡り暫く川沿いに下流へと歩いた所にある、丁度俺の家の対岸の奥の方の叶奈ちゃんの家が立つ高級住宅街に来ていた。
ちなみに俺の通う中学校や小学校、そして川沿いにもう少し下流の方に行った所にだが父様のお店「花見屋」もこの区域と市場の境目にあったりする。
「所でちよよん明日遊べたりするかー?」
「ん、大丈夫だよー」
「本当か!?それじゃあ明日ちよよんの家に遊びに行かせてもらうぞ!」
「はーい。楽しみに待ってるからねー」
ーーーーーーーーーー
「さてさて、それじゃあ市場にも着いたことだし、買い出しでもやるとしますか」
「お!千代ちゃん!今日もお買い物かい?」
「あ、八百屋のおじちゃん。今日は母様のお使いだよー」
「おぉ、そうだったのかい。それじゃあ色々とオマケしてやらないと!お母さんにもよろしく言っといておくれ!」
「はーい!」
「よっ!千代ちゃんお使いだって?偉いねぇ、ほら持ってきな!」
「わわっ!魚屋のおじちゃんこれいいの!?」
「おう!お手伝いの出来る偉い子にはご褒美だ!」
「あはははは……ありがとねー」
もう中学生なんだけどなぁ……
「お前だけいいカッコしてんじゃねぇよテツ、ほら千代ちゃんウチからもサービスだ!」
「わわわっ!あ、ありがとう肉屋のおじちゃん!」
住宅街を抜けて川沿いを更に下流に下ると、ガヤガヤと賑やかな様々な食料品店や、裏の狭い路地には様々な立ち食いの飲食店が並ぶこの街の商業の中心地にやってくる。
ちなみに俺の知る限りこの街にいかがわしいお店はない。
「いつも通りといえばいつも通りだけど……買ったものより皆から貰ったオマケの方が多いんだよなぁ」
今日も相変わらず前が見えない。
「ったく、なーにやってんだ千代」
「あ、礼二」
「オッサン達もオッサン達だよな。こんなになるまでオマケ付けなくてもいいだろうに」
「まぁまぁ、せっかくの好意なんだから。受け取らないとダメだよ」
「俺は好意でも与える量に限度があるって言ってるんだ。ほら、俺も持ってやるから一緒に帰るぞ」
「ふふふっ、はーい」
これが俺の住む街の一番誇れるものである。
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