お泊まり子守り
「ちよねーたーんっ!」
「おぉ!?ゆーちゃん元気だねぇ」
「えっへへへ〜♪だってきょーはちよねーたんがおとまりしてくれるんだもん!」
「そっかそっかぁ〜♪」
あーもうっ!ほんっと可愛いなぁゆーちゃんはっ!
春休みに入りしばらく経ったある日の事、片手にちょっと大き目のバックを持った俺は、こっちに向かって走ってきた満面の笑みのゆーちゃんに抱きつかれ、あまりの可愛さにそう心の中で悶えていた。
「ほらほら優香ちゃん。そんな所でぎゅーってしてたらお姉ちゃん困っちゃうよー」
「あははっ、大丈夫ですよ優美さん。これくらい慣れっこですから」
主にウチのお姉ちゃん達のお陰でねー。
「でも本当に助かったよ。今日は旦那も私もちょっと外せない用事があってねぇ。一応礼二が居るとはいえ……礼二だしねぇ…………」
「あはははは……」
まぁ中学生男子に二歳の女児を任せるってのはちょっと怖いわなぁ……もし任せて怪我させたり変な物食べさせたりとかさせたら大変だし。それに……
「まぁ任せてくださいよ優美さん!ゆーちゃんくらいの子に食べさせていい食べ物とかよく分かってますから!」
俺には二歳の頃に食べさせられてた奴の記憶があるからね!それさえ再現出来れば完璧よ!
「…………我ながらよく覚えてたなぁとは思うけど」
「千代ちゃんなにか言った?」
「イエナニモー。とにかく、ゆーちゃんとお家の事は任せてください!」
「ほんと、千代ちゃんったら礼二にも見習って欲しいくらいしっかりしてるわねぇ。それじゃあよろしくお願いね?」
「はい!」
こうして俺は、優美さんに変わりゆーちゃんの面倒を見てあげる一日が幕を開けたのであった。
ーーーーーーーーーー〜午前十一時〜
「くっそ……朝から鳩尾にダイブ貰うとは……」
「あ、やっと起きて来た。というか朝と言うよりもう昼だけど……おはよう礼二」
「おあよぉぉぉ……ってちっ、千代っ!?なんでウチに?!」
「なんでって……そりゃあ────」
「ちよねーたん!にーに、おこしてきた!」
「おぉー!偉いぞゆーちゃんっ!なでなでしてあげようっ!」
「きゃー!」
「とまぁこんな具合に、今日一日優美さんに頼まれてゆーちゃんの面倒見る事になったの」
寝起きだと分かる程寝癖で髪の毛ボサボサなまま慌てふためく礼二を前に、俺は礼二を起こしてきたゆーちゃんの頭をよしよしと撫でながらそう説明する。
「そ、そうだったのか……って今日一日?」
「うん」
「一日って……丸々一日?朝から晩まで?」
「うん。何かあっちゃいけないから泊まり込みでね」
「そ、そうか……と、とりあえず着替えてくるっ!」
「あらっ」
顔真っ赤にして部屋に戻っちゃった。
「にーにいっちゃったー」
「ねー」
産まれた時から一緒の裸でも何でも見た幼馴染なんだし、今更パジャマ姿一つで恥ずかしい物かねぇ……
ドタバタと走り去って行った礼二の背中を見送った俺は、ゆーちゃんと顔を見合せながらそう思うのだった。
ーーーーーーーーーー〜午後七時〜
「ちよねーたんのママよりおっきい!」
「えっ!?ま、マジかぁ……」
優美さんのよりも……かぁ。
「まじかぁ?」
「そうだよぉー、マジだよぉー」
何を今更って感じだけど、男としての尊厳というか、なんというか……
「ぷかぷかしてるー」
「あはははは……」
日が暮れて暗くなってきた時間、ガス給湯器で沸かされた湯船の中で、俺はゆーちゃんに何がとは言わないがあれを好き勝手されながら一緒にお風呂に入っていた。
「ゆーちゃんはお風呂好きなのー?」
「ううん」
「ありゃ?にっこにこしてるから好きなのかなーって思ったけど」
「ちよねーたんといっしょだもん」
「およ?」
つまり俺と一緒だからお風呂が楽しいって事かな?
「くーっ!ゆーちゃん可愛い事言ってくれるねーっ!」
「んむぁっ!?むむむぅっ!」
「おっと!ごめんねゆーちゃんっ。大丈夫?」
「くるちかた」
「ごめんねー。お風呂上がったらプリンあるから、機嫌直して?」
「ぷりん!ゆーねっ、ちよねーたんのぷりんすきっ!」
「はぁうっ!」
やばいっ!この生き物可愛すぎるっ!
「ちよねーたん!ちよねーたん!もうおふろいい?はやくぷりんー!」
「そうだね、あんまり長湯してのぼせるのもあれだしお風呂上がろっか」
「はーい!」
にこーっと満面の笑みでそう言うゆーちゃんを前に、俺は思わず尊死しそうになりながらもそう言ってお風呂から上がるのであった。
この後、裸で飛び出したゆーちゃんをタオル1枚で追いかけ、礼二がなんかすっごい怒っていたのはまた別のお話。
ーーーーーーーーーー〜午後九時〜
「それでねー……ゆーねー……」
む、これは……
「ゆーちゃんお眠ー?」
「んー」
「もうねんねんするー?」
「んやー……」
あぁぁ〜、小さいお手手でくしくししてる〜♪可愛いなぁ〜♪
「ゆーちゃ、もっとちよねーたんとおはなしすゆのー……」
「そっかそっかぁ〜♪」
ぽんぽんと俺が寝かしつけようと優しく叩いてあげてる布団の中で、眠そうにそう言っているゆーちゃんを見て、俺はふとある事を思いつく。
「なら一つ昔話をしてあげようかな」
「むかしばなしー?」
「そっ。むかーしむかしある所に一人の男の子が居ました」
「おとこのこー?」
「そ、ゆーちゃんのにーによりも少し上くらいの子だね。で、その子はある夢を叶えたくてお勉強を頑張っていました」
「おべんきょ」
「そっ、おべんきょ。そして頑張ってお勉強をした男の子は、なんと夢を叶える為の切符を手に入れる事が出来たのです!」
「きっぷぅー……」
「うん、切符だよー。しかし切符を持ってたはずの男の子が次に目を覚ますと────」
「すー……すー……」
「────ありゃ、寝ちゃったか」
さすがにつまらなかったかな?
まぁ即興で考えた俺の転生した時の話だったし、私にとっては数年前の出来事だが君にとっては多分、十数年後の出来事だって感じで。
「おやすみ、ゆーちゃん」
「んむぅ……えへへぇー……」
こうして、一日ゆーちゃんの面倒を見てあげるというミッションは無事達成されたのであった。
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