俺の街の裏通り
川沿いの対岸同士にある、広くて長い二つの中央通りを中心に広がる、俺の住む町の端の方、中央通りから時々ある脇道を進んだ先にあるパイプや看板、民家や様々な店が立ち並ぶそのごった返した薄暗い裏通りを俺は歩いていた。
「父様の店とかがある中央通りもいかにも昭和って感じがして好きだけど、こういった立ち食い系のお店が並ぶ裏通りも正に昭和って感じで好きだなぁ」
中央通りのお店の裏口とかとも繋がってるけど、小さい頃にだいぶ無茶してそれ以来入るなって言われてるんだけどねぇ……なーんかたまに来たくなるんだよなぁ。
「ま、もう俺も中学生だし、昔に比べて治安ももっと良くなったから大丈夫でしょ」
そんな事を呟きながら、俺が特になんの目的もなく裏通りをぶらりぶらりとしていると、日暮れの時間になったからかぽつりぽつりとあちこちの看板の灯りがつき始める。
お、お店が開き出したぞ。
やっぱりいつ見てもこの誰も居ない音も無い、裏通りにある看板の灯りがつき始める光景っていうのはちょっと怖いけどそそられる雰囲気があるよね。
「さてさて、それじゃあ楽しみにしてた雰囲気も堪能したし、そろそろ今日の晩御飯をどこで食べるか決めるとしますか」
1人分なら作るより食べてきた方でいいかと思って久しぶりに来てる訳だが……母様父様が揃って一晩お出かけする事は時々あるけれど、まさかそこで我が姉兄も全員がお泊まりとかで居なくなるとは思わなかったよ。
しかもおじいちゃんまで今日は酒盛りあるから夜中まで帰らないとかだし。
「はぁ……誰か一人はお留守番してなきゃだけど、ひとりぼっちは寂しいんだぞ」
明日は久しぶりに父様と母様のお布団に潜り込みに行ってやる……っと、お?あれは確か────
「お!ちびっこが迷い込んでるかと思ったら千代ちゃんじゃないか」
「む!ちびっこは余計だよおじさん!あーあ、せっかくおじさんのお寿司屋さんで食べようって思ってたのになー」
俺はそう言うと、暖簾を出す為に表に出てたまたま俺を見つけて声をかけた立ち食い寿司屋のおじさんに、肘で脇をつんつんしてやりながらいたずらっ子な笑顔を浮かべる。
「へっ!そう言って安くして貰いたいんだろ?」
「あ、バレた?」
「バレたも何も、俺の店の食いもんを千代ちゃんみたいな中学生が何皿分も払えるわけないだろう?」
「えへへへへへへ」
おじさんの寿司屋は高級店だからねー。俺の小遣いじゃ二皿で財布が瀕死よ。でもまぁ……
「ま、でも千代ちゃんにはいつもお世話になってるし、一皿奢ってやるよ。早い所入んな」
「ほんと?おじさん大好きー!」
なんか知らないけど奢って貰えるんだよねっ!近所付き合いはやっとくもんさねー!
「はははっ!おだてても一皿しか出さねぇからなー?」
「はーいっ!」
こうして俺は、上手いことまんまと普通に頼めば二千円はする特上寿司セットをタダで頂けたのだった。
そして俺がこのおじさんの寿司屋に居る事が広まったのか、外から次はウチに来てくれよという声掛けをされ、俺は満腹になるまでこの街の裏通りグルメを一つ一つ堪能していったのであった。
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