風邪引きのある日
「へっぷしっ!んにゃぁ……」
いやぁー……油断してたなぁ。
「年度末、春休み、まさかこうもタイミングを見計らったかの如く風邪を引くとは……」
「こほっ、こほっ。うぅ〜……」
風になると小さい頃は母様とかお姉ちゃん達が付きっきりでいてくれて良かったけど、流石に中学生になると放置されるのがなぁ……
「仕方ないけど……なんか寂しい」
春休みに入った初日、いつもなら張り切ってお店の手伝いをしていたであろう俺は、布団の中でそう呟きながら寂しさを紛らわせようと、俺より大きいシャチのぬいぐるみにぎゅうっと抱きついていた。
というかそもそも風邪なんて数年に一度あるかないか程度の筈だろう?
きちんと予防とか風邪に気をつけてるのに、なんでこんな毎年二回は確実に風邪ひいてる上に、毎回ほぼ確定でぶり返してるんだ。
「確か最高五回くらいは風邪ひいた年もあったよね?どんだけ弱いんだ俺の体……」
免疫さんいい加減風邪に耐性つけてもらってどうぞ。
ま、でも────
「学校のある平日じゃない分、礼二とか叶奈ちゃん綺月ちゃんに迷惑かけないし、その点このタイミングで引いたのは運が良かったのかな?こほっ」
その点ありにしても風邪が辛いのは変わらないんだし、引きたくなかったっていうのは変わらないんだけどね……っと、流石に薬が効いてきたかな?
「こほっけほっ。うぅ……咳が出て喉が痛くても瞼は重い…………」
まぁでも、いい感じに眠くはなってきたし……このまま……一眠りすれ……ば…………
「すぅー……すぅー……」
瞼の重さと布団の心地よい温かさ、そして抱きついているぬいぐるみの触り心地の良さから、俺は一瞬で穏やかな夢の中へと落ちていくのだった。
そして何時間後か、目を覚ました俺の目の前は────
「ん……んむっ…………」
この柔らかさ、反発力、そして洋服特有のこの触り心地……
「……何やってるのさ、お姉ちゃん」
「あっ、よーちゃんおはよう。ぐっすり眠れたー?」
「そりゃあ眠れたよ。お薬のおかげでね」
千保お姉ちゃんの大きな大きな柔らかい物で覆われていた。
「あーんよーちゃんが冷たいー。寝てる間あんなにおっぱい揉んでたのにー」
「嘘こけー。俺の手はあんたさんの腰の方にあるでしょーが」
「えへへへへ。ばれた?」
「バレるに決まってるでしょうが。ったく、ほんとお姉ちゃん俺が男だって分かってから前以上にスキンシップして来るようになったよね。なんで?」
「そうかなー?」
「そうだよー。現に今も私風邪なのに抱きついてるじゃん」
「だってなんか前以上によーちゃんが可愛い気がするんだもん。それに、ウチはよーちゃんみたいに体弱くないからこれくらい大丈夫でーす」
「んむー!」
苦しい苦しい!
「はーなーれーてー!いつもならいいけど、今私風邪ひいてるのっ!そんな抱きしめられるとキツいって!」
「あっ、ごめん」
「ったくもー……そういうのは治ったらどれだけでもやっていいから、今はほっといて」
「はーい。それじゃあお姉ちゃんは退散しますよっと」
はぁ……これでやっとゆっくり過ごせる…………って、なんかやけに素直だな?
「むっふっふー。治ったらどれだけでもって言質取ったぞ〜♪」
「あっ!」
そういうことか!
千保お姉ちゃんのその言葉を聞き、何故やけに素直だったかを理解した俺はすぐさま撤回しようと起き上がったものの、もうお姉ちゃんは俺の部屋から居なくなっていたのだった。
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