取り組みへの練習

「ふーむ……」


 触り心地、柔らかさ的に生地は────


「これ、かな?」


 んで、中身は反発力的にはこれ、でもこれは繊維が固まりやすいから……


「これとこれ……かな?」


「なーにやってるのっ!ちーよちー!」


「わわっ!は、綺月ちゃん?!びっくりしたぁ……」


 心臓飛び出るかと思ったよ……


「えへへへへ〜♪」


 街のショッピングモール、その一角にある生地や綿なんかといった物を取り扱っているお店でいきなり後ろから綺月ちゃんに抱きつかれた俺は、目の前で笑う綺月ちゃんにため息を着く。


「ったくこの子は……というか、こんな所で会うなんて珍しいね?」


「今日はお父さん達とお買い物に来てるんだー。そういうちよちーは?一人?」


「そ、今日は一人で来てるんだー」


「へぇー。それで、綿と生地をそんなに抱えて何かするつもりなの?」


「うん。ほら、私の部屋って色々なシャチとイルカの物が少しあるじゃん?」


「うん。ちょっととか少しとか、それ所じゃなくて山のようにが正しいと思うけど」


「うるさい。それでまぁ、あれだけ買ったり二人から貰ったりはしてるんだけど、ちょっと自分でも欲しいものがあってね」


「……え?あれだけあってまだ欲しいのがあるの?本気?」


「ちょっ!何さその目は!いいじゃん私の趣味みたいなものなんだし!とりあえず、そういう事でちょっと自分で作ってみようって事!わかった?!」


「わ、わかったわかった。わかったからずいーってしてこないでー」


 若干引き気味の綺月ちゃんに、俺はそう言いながら腕いっぱいに材料達を抱えて鼻息荒く綺月ちゃんに顔をグイッと近づけていた。

 そう、今日俺がこのお店へと来た目的は自分オリジナルのシャチとイルカのグッズを作るためなのである!


「とはいっても、完全に私個人の趣味って訳じゃないんだけどね」


「と言うと?」


「実は私、家のお店を継ぐつもりなんだけどさ」


「うん」


「その時にこう、今のままの複合雑貨屋としてじゃなく、飲食店、もしくはこの街特有の、観光客をターゲットにしたお土産とかを取り扱うお店にしようと思っててさ」


「へぇー!確かに普通にお店するより面白そうだね!それに私達の街ってお客さん結構多いしね」


「ね。特にお祭りとか季節毎にやるくらい季節行事多いし、そこでお土産として試しに手作りの品とかもいいんじゃないかなぁと思ってさ」


「なるほどねぇー」


「綺月ちゃんはどう?割といいと思うんだけど……」


「私もいいと思うよ!でもまぁ……」


「でもまぁ?」


「ちよちーらしくて安心って感じかな?」


「はい?」


「それじゃっ!私もう行くから!」


「えっ、ちょっ、綺月ちゃん!?それってどういう意味なのー!ってあぁ!」


 持ってたの落としちゃった!


 ぶんぶんと俺に手を振り去っていく綺月ちゃんの背中に手を伸ばしながらそう言ったものの、落としてしまった商品を抱え直している内に見失ってしまうのだった。

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