姉妹でお祝い

「ねーまだダメなのー?」


「まーだだよー♪」


「こーねぇもーちょっとだけ辛抱してねー」


 一月も過ぎ去り二月、一番寒さが厳しいこの季節のある日の事、俺と千保お姉ちゃんは帰ってきたばっかりの千胡お姉ちゃんの目と鼻を手で覆い隠して歩いていた。

 そして目的地である居間へと辿り着いた俺と千保お姉ちゃんが手を離すとそこには────


「……と、言うわけで…………」


「「千胡お姉ちゃん大学進学おめでとー!」」


「えっ!えっ?!何これっ、何これっ!えっ、これ私に!?」


 テンパってる千胡お姉ちゃん可愛いなぁ〜♪


「そうだよー!私と千保お姉ちゃんで作ったんだー。ねー?」


「ねー!」


 唐揚げ、ローストビーフ、グラタンやポテトサラダ、そして真ん中には大きく「合格おめでとう!」と書かれたチョコプレートが乗せられたケーキが置かれていた。

 そしてそれを見て私と千保お姉ちゃんの方とちゃぶ台の方を交互に見る千胡お姉ちゃんに、俺達は笑顔でそう答えるのだった。


「……っ!二人共ありがとーっ!私、頑張ったかいがあったよー!」


 そう、この豪勢な料理は先日わかった千胡お姉ちゃんの大学入試合格祝い、そのご馳走なのである。


 ーーーーーーーーーー


「ふぅー……美味しかった〜♪ご馳走さまでしたっと」


「ほんと、その細身のどこにこれだけのご飯が入るんだか……」


「そのくせおっぱいは大きくならないもんね。ウチらのお姉ちゃんは不思議だ」


「余計な事を言う妹なんぞこうしてくれるわー!」


「あははっ!あははははっ!ちょっ!やめっ!こちょこちょはだめーっ!」


「こらこらお姉ちゃん達、ご飯食べたばっかりなんだから、そんな事してたら吐いちゃうよー」


「はーい。にしても、こんな豪勢な料理、本当に良かったの?」


「良かったも何も、父様母様にも「これで祝ってやってくれ」って言われて渡されたお金で作ったからねー。ったく、あんな兄大学に行かせるだけ無駄だよ」


「まぁまぁ、お父さん達にも体裁って言うのがあるんだよ。それにお兄ぃに何か大事な話があるって言ってたし」


 その大事な話が「お前に花宮家を継がせることにした」じゃない事を俺が心底願ってて、気がついたらこんなに料理作ってたなんて千保お姉ちゃんは知らないだろうなぁ。


 俺は絶対通るとは思ってなかったあの兄の大学祝いに、父様母様が兄と一緒に出かけてる事を思い出しながら、俺はそんな一抹の不安に駆られる。


「二人共ありがとうね。でも多分、いや絶対弘紀のお祝いよりもこっちの方が美味しいだろうし、心置き無く満足出来るって思って私達だけにしてくれたんだと思うよ?」


「ほんとかなぁ?」


「かなぁ?」


 あの二人、俺達三姉妹の事を本当に大切にしてるのは分かるけど、それ以上に昔ながらの長男至上主義だからなぁ……


「ほんとだって!だってほらっ!昨日父様からこれ貰ったんだもん!」


「ん?それって……髪留め?」


「えっ!すっごい綺麗ー!」


「ふふふっ、でしょー?」


「うん。凄く綺麗、でも派手すぎないし、普段使いとか面接とか、どんな場所でも使えそうで凄くいいね」


「えへへへへ♪それにね、これって特注品なんだって」


「「へー!」」


 そういや、礼二が「父さんが特注品の仕事受けた」って言ってたなぁ。あいつの家って金物店だし、依頼ってうちの事だったのか。


 中に金色の模様が描かれた黒縁の細い棒がクロスしているデザインの落ち着いてるが綺麗で精巧な髪留めを見て、俺は千保お姉ちゃんと感嘆の声を上げながらそんな事を思い出す。

 しかし、おめでたい事ばかりではなく……


「…………でもそっかぁ……もう次の春から千胡お姉ちゃん、居ないんだよね」


「よーちゃん寂しくなるねー」


「ねー」


 この辺には大学ないから仕方ないとはいえ、電車で数時間の距離はそう簡単に会えなくなるなぁ。


 そう、千胡お姉ちゃんは大学に通うべく、今年の春から大学のある数駅先の大きな街で一人暮らしを始めるのだ。

 その為今まで居て当然だった姉妹の一人がいなくなるという事もあり、俺と千保お姉ちゃんはほんの少しだけしょんぼりとしてしまう。


 まぁでも寂しくはなるけどあの馬鹿兄が行くような、ギリギリ家から通える距離にあるあの程度の低いって噂の大学に行かれるよりは、遥かにマシだけどね。


「千胡お姉ちゃん。私、お姉ちゃんの事応援してるからね」


「ウチも!こーねぇの事応援してるから!」


「二人共ありがとう……!でも毎週週末には帰ってくるつもりだし、それに一応は時間さえあれば何時でも来れるから、寂しい時はお泊まりしに来てもいいしね!」


 お?そんな事言われたら毎週通うぞ?未だに父様母様と時々一緒に寝たがる俺の家族愛舐めるな?

 というかそういう人程最初の一、二週間目しか帰ってこないんだよなぁ。


「まぁでも、次は千保ちゃん、その次は千代ちゃんの番なんだから、二人共私に負けないよう、夢に向かって頑張るんだよ?」


「「うん!」」


 こうして、俺と千保お姉ちゃんによる千胡お姉ちゃんのお祝いの席は姉妹仲良く水入らずで終わったのだった。

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