伝統と存続

 さて、さてさてさて。


「年末年始も終わりまして、色々と一段落しましたが……ここからがお店をやってる人にとっては忙しいのですよ!ね!父様っ!」


「お、おぉ……そうだな。でも千代、別にお前は家でゆっくりしててもいいんだぞ?どうせお前のおかげでミスは少ないんだし……」


「やっ!私だってお店のお手伝いしてたんだもん!このお手伝いもするのっ!それに私が手伝えばその分早く終わるでしょっ」


「はぁー……本当はこういった仕事こそ弘紀が手伝うべきなんだが、助かるのは本当だしな……仕方ない。千代、今年もよろしく頼んだぞ」


「うん!任せてっ!」


 やれやれといった表情ながら、父様にそう言われ頭を撫でられた俺は、ぽよんと自分の胸を叩きながらふんすとこれから行う仕事に対し、気合いに満ちた表情を浮かべるのだった。

 そう、今日はお店にとって大事な日、商品の在庫を数え、正確な利益を把握する大切なお仕事である棚卸しの日なのである。

 ちなみになぜ三月や九月でも無いのにやるのかと言うと、ウチはお店もそこまで大きい訳じゃないため三ヶ月に一回くらいの割合で在庫確認がてら棚卸し作業をしているのだ。


「で、最後にラップ二十。どう?」


「おう、問題なしだ。つまりは今回のも在庫と売り上げの違いなしだ」


「やったーい!」


 違算とかなーし!売り上げひゃくぱーせんとー!


「ここ数年の棚卸しは早く終わる上に売り上げと在庫の違算もなし、これも千代のおかげだろうな」


「えへへへへ〜♪」


 父様一人でお店するよりも、私と一緒にやれば泥棒とか違算も減るからね!やっといて損なしなーのよっ!


「……なぁ千代」


「ん〜?」


「この花見屋がどれくらい歴史があるか、知ってるか?」


「このお店?」


 確か江戸時代とかそれくらいからだったよね?


「江戸時代の時この辺りに開拓村とかできたくらいだった気がするけど……」


 夕方、棚卸しもなんとか終わり、父様に頭を撫でられ、満面の笑みで気分上々になっていた俺は、突然父様からそんな話を振られ、昔読んだ本の記憶通りに答える。


「そうだ、流石千代、よく調べてるな。それでだ、この店は代々花宮家の長男が継いで来ている。俺も、父さんも、じいさんも、そのまたじいさんも、何世代もな」


「おぉ……」


 すっごく壮大な話っぽい……!でも……


「それって父様…………私じゃお店は……花宮家は継げさせられないって事ですか?」


「……そうだ」


 やっぱり……薄々は思ってたけれど、父様は俺にお店を継がせる気は無かったのか……そりゃあ、四人もいる子供の末娘だもんな。当然と言えば当然か。

 薄々とは言え、やっぱり直に言われるとこう来るものが────


「だが、その伝統と店の存続、これはまた別の話だ」


「……?」


「俺達商人が時代に合わせ、人に合わせ、環境に合わせ、売るもの、売り方、店、それらを変えてきたように、商人とは合わせなければ、変えなければ生きてはいけない」


「父様……それってもしかして────」


「そうだ。千代、まだお前と決まった訳では無いが俺はお前が次の花見屋の店主になってもいいと思っている」


「────っ!」


 笑顔を浮かべながらもそう言ってくれた父様のその真剣な眼差しを受け、俺にもチャンスがあるんだと父様のお墨付きを貰った俺は喜びに打ち震える。

 そして────


「私っ!父様が誇れるようなこの街一番……ううん!もっともっと!この国でも有数のお店にこのお店をしてみせるから!」


「おう。期待してるぞ、千代」


 そう父様に俺は宣言するのだった。

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