長さの理由

 よーんじゅろーくっ、よんじゅーしーちっ、よんじゅはーっちっ!


「よんじゅーくぅー!ごーじゅ──────」


 バタン!


「ちよちーただいまっ!」


「ちよよんお風呂行くぞー!」


「っ〜!ぁぁぁあー……」


 日もだいぶ傾き始めた時間帯、夕食を振舞ったお礼としてか、お皿を洗ってくれるとの事で二人に任せいつも通り夕食後に日課をこなしていた俺は、二人の襲来に驚いて床に頭を打ち付けて悶絶していた。


「うわっ、ごちんって音したぞ」


「いたそー……」


「だーれのせいだと思ってんだこの阿呆どもぉー……」


 あーもうほんと、死ぬ程ではないけどふっつうに痛かったわ。


「所でちよよんは一体何やってたんだー?」


「筋トレだよ。そこまで本格的なのじゃないけどね」


「へー!それで筋トレ?はどんな事やってたのー?」


「そうだねぇ……腹筋三十回、腕立て二十回、後はスクワットも二十回かなぁ?」


「ほへぇー……ちよよんの意外な趣味だな!」


「ねー!毎日やってるの?」


「うん、毎日だよ。お店やるのには体力居るから今のうちからつけておかないとね。それに……」


「「それに?」」


「その、私の家の女の人……といってもお姉ちゃん達なんだけどちょっと太りやすいみたいでさ、私はどうか知らないけど対策してて損は無いかなぁーって……」


 実際、千保お姉ちゃんはマッサージで千胡お姉ちゃんは食事でダイエットしたりしてるからなぁ……


「となると、これがちよよんが太らない秘訣かっ!」


「明日から私も真似しようかな……」


 あははははと目を逸らし頬を指で掻きながらそう言った俺は、叶奈ちゃんはともかく綺月ちゃんがそう言うのを聞いて……


 いやぁー……運動苦手な綺月ちゃんが毎日は無理でしょこれ…………


 そう思ってしまうのであった。


 ーーーーーーーーーーーーーー


「ぬぁぁぁぁぁ〜……」


「叶奈ちゃん溶けてますなぁ」


「ちよよんの洗い方気持ちよすぎるぞぉ〜……」


「いいなー!次私も洗ってもらうし楽しみー!」


「はいはい、洗ってあげるのはいいけど私も綺麗にしてよねー?」


 湯気が満ちる浴場の中、湯船から溢れたお湯の音と時々聞こえる体を流すお湯の音をBGMに、ゴシゴシと互いに体を洗いっこしていた。


「ふー、スッキリスッキリー」


「さっぱりしたー」


「二人共髪の毛長いもんなー。洗うの大変なら短くすればいいのに」


「私家が神社だからさー。お父さんが長くしといてくれって頼まれて」


「「あー」」


 確かに家の神社の巫女さんって基本的に髪長い人ばっかりだし、本当に綺月ちゃんは伸ばしといてくれって頼まれてそう。


「ちなみにちよよんはどうしてなんだー?」


「私はねー、髪が長いのが好きっていうのもあるんだけど……」


「だけど?」


「髪の毛切ろうとするとお姉ちゃん達に全力で止められる」


「「えぇー……?」」


「なんかねー、髪の毛弄れなくなるとか洗ってあげれなくなるとかそんなふざけた理由だった気がする」


「なんかー……その、あれだね」


「愛されてるんだなぁーちよよんは」


 二人のそのなんと言ったらいいんでしょうという雰囲気と言葉に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「でもそっかー。二人共髪の毛長いのには理由があったんだなー」


「まぁねー。でもそれ抜きにしても髪の毛長い方が好きっていうのはあるかな?」


「うんうん。私も慣れたからって言われたらそれまでだけど、長い髪の毛気に入ってるしね」


「ふーん……叶奈も髪の毛伸ばして見ようかなぁ……」


「叶奈ちゃんが……」


「髪を……?」


 あの天真爛漫な叶奈ちゃんが髪の毛長くなって……


「ぷっ、あははははははっ!」


「かなちーの髪がっ、長いってっ!あははははっ!」


「んなっ!わっ、笑わなくてもいいじゃんかぁ!」


「だってっ!叶奈ちゃんの事だし「邪魔くさいぞ!」とか言いそうなんだもん!」


「分かるっ!すっごいわかる!」


「んむー!ぷーっだっ!」


 思わず長い髪の叶奈ちゃんを思い浮かべお腹を抱えて笑い始めた俺と綺月ちゃんに、叶奈ちゃんは不機嫌になってぷいっと顔を背ける。

 この後、風呂上がりの一杯を奢る代わりに仲直りしたりとなんやかんやありながら、お風呂の時間は楽しく過ごしたのであった。

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