継がせる存在、継ぐべき才能

「んで俺がそんなめんどくせぇ事しなきゃなんねぇんだ」


「あのなぁ、お前は花宮家の長男なんだから────」


「じゃあ俺は遊びに行くから」


「……はぁ、どうしたもんかなぁ」


 あの馬鹿は本当に……もう少し長男としての自覚をなぁ…………


「ん?」


「とーおっさまー!」


「うおっ?!どうした千代、いきなり抱きついてきて」


「えへへぇ〜♪父様のお髭じょりじょりぃ〜♪」


 もう少しすれば暑くなり、可愛らしくも綺麗に大きく……なった愛娘達が薄着になってしまう、眩しいが心配になる季節を目前に控えたある日の事。

 俺は昔から変わらない長男である弘紀の態度に本当に家を、そして店を継がせていいものかと頭を抱えて居た所末娘である千代に抱きつかれスリスリと頬ずりをされる。


「こらこら、父様は仕事中なんだからやめなさい」


「じゃあお膝に座るー」


「ったく、仕方ないなぁ。大人しくしてるんだぞ?」


「はーいっ♪」


 俺の娘は本当にかわいいなぁ……特に千代、この子は料理も出来るし頭もキレる、その上容姿も良くて人柄も凄くいい子だ。

 きっとこの子を嫁にする男は幸せだろう。まぁ、それ以上にこの子を幸せにしないと結婚は許さないがな。


「ん?父様これって仕入れする商品?」


「そうだ、季節も変わるし何か新しい物を仕入れようかと思ってな」


 これから暑くなるし、アイスとかそこら辺がやっぱり妥当か……


「ふーん……」


 去年の夏に千代と一緒に店先へアイス用の冷蔵庫を運び出したのを思い出しつつ、俺がそんな事を思い出していると千代は考え込むように商品表を眺め始める。


「……ねぇ父様」


「ん?なんだ?」


「父様の仕入先とかの繋がりに製薬会社ってある?」


「製薬会社?んー……ないことも無いが…………」


 軽い薬とか害虫駆除の薬品仕入れてるしなぁ……秋風さんとかその辺なら確かあったはずだ。


「それならさ、ゴキブリぽいぽいって商品仕入れない?」


「ゴキブリぽいぽい?」


「うん、これこれ」


「えーっとなになに……ゴキブリを捕まえた箱ごと捨てるだけ……これって今までの奴とは違うのか?」


「違うも違う!全然違うよ!父様知ってる?今のゴキブリ対策の商品って容器の中でゴキブリ動き回ってるのが分かるんだよ?そしてそれを水に沈めたりして処理するんだよ!」


「お、おう……」


「それがこれならゴキブリの姿を見ること無く捨てれば良いだけなんだよ!これは全主婦が待ちに待ってた発明!絶対売れるって!」


 確かに、あれがやたら動き回ってる容器を回収して処理して……っていうのはやりたくないな、それをしなくて良くなるのは確かにいいかもしれない。


「それにもうそろそろ夏になるでしょ?夏になるとゴキブリが活発に動き回るようになるからもっと売れると思うよ!」


「なるほどなぁ……」


 そう考えると確かにいいかもしれないな。


「よし、まだ決まった訳じゃないが前向きに考えて見よう」


「ほんと?!」


「あぁ、にしても……」


 この子、まだ見た事のないだろう商品をここまで理解出来ていい所、これからの必要性、従来の類似商品との違いを一瞬で見抜けるとは……


「本当に、この子は神童なのかもしれないな」


「ん?父様何か言った?」


「千代はかわいいなぁって言ったんだよ」


「えへへ〜♪肩たたきしてあげるっ!」


「おぉ、ありがとうな千代」


 たんとんたんとんと千代に肩をたたかれながら、俺は自らの娘の商才を改めて目にし、本当に店を継がせるべきはどちらなのか、そう考えるのだった。

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