納得したくない成長期

「んっ……あれ?」


「どうしたのちよちー?」


「いや、ちょっと水着が……」


 去年と比べてなんだかきつくなったような……


 七月の初め頃、あの悪夢騒動から数週間が経ち、ようやっといつも通りの日常に戻ろうとしていたある日の事、俺は毎年やってくるイベント当日、初めての出来事に戸惑っていた。


「お!ちよよんもとうとう太ったか!」


「ド直球に失礼だな叶奈ちゃん。とりあえずさっさと水着着てそのでっかいのをしまいなさい」


「ふにゃあーい。でもちよよん、さっき太ったとか言ったけど多分それお胸がおっきくなったからだぞ」


「ふぇ?」


 胸が大きく?俺が……?あ、いやでも、確かに今年に入ってから急に大きくなり始めたのは確かだし、そろそろアレを買う必要がとか思っては……こほん。


「どーせちよよんの事だから「そんな事はーって思ったけど心当たりがー」っていった感じでしょ?」


「ぎくっ」


「ほーら図星ー、変にならない着方わからないだろうから、やってあげるぞ!」


 くっ……!叶奈ちゃんに教えてもらうなんて屈辱……だけど……


「うぅ、お願いしますー」


「おう!任せろ!まずはここをだな……」


「おぉ……!なるほど……」


「……いいなぁ」


 そんなこんなで賑やかな女子更衣室の中、叶奈ちゃんによる指導を俺は身をもって受ける事となったのであった。


 ーーーーーーーーーーーーーー


「うぅ……ジロジロ見られてる気がする……」


「大きくなるとそんなもんだぞ!」


「かなちーはもう少しくらい恥じらい持とうよ……」


 準備体操を済ませ、先生のお話が終わった後プールと同じ令和では嗅ぐことのなかったがなんだか懐かしさを感じる独特の匂いのする殺菌プールに入る順番待ちをしていた。


「にしてもちよちー、去年まで全然大きくならなかったのに、今年になってから急に大きくなり始めたよね」


 言われて見れば……


「その割に全く太ったりもしてないし……何か秘密とか……ある?」


「目がっ、目が怖いよ綺月ちゃん!それに知らないっ!日課の運動以外何もやってないって!」


「むぅ……でも、去年まで私と同じくらいだったのに、なんでこんな急に……」


 確かに割と不思議なんだよなぁ。何が原因なんだろう?


「単純にちよよんの成長期が今来たとか?ちよよん小学生の頃から全く身長伸びたりしてなかったし」


「あー確かに、というかその線しかない」


 それなら色々全部納得だ。納得はしたくないが。


「その割には身長全く伸びてないみたいだけどね!」


「うっさい、沈めるぞ」


「ちよちーの目が本気だ……」


「こらそこー、順番来るからくっちゃべって無いで早く入るー」


「「「はーい」」」


 そんな割と深刻な話に盛り上がって居た俺達三人は、先生にそう言われると急いで殺菌プールへと入り、案の定冷たさに可愛らしい叫び声を上げたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る