俺と悪夢と姉達と

「んっ……んん…………」


 暑い……喉……乾いた…………


「んぅ……んゆっ……ふぁぁあ……」


 あ……あれ……?私……私?いや、俺は一体……?


「あ、起きた?大丈夫千代ちゃん?」


「えぇっと私は一体……」


 梅雨ではありえない程の汗で蒸れ、凄まじい喉の乾きを感じながらなんだか重い体を起き上がらせた俺は、枕元に居た千胡お姉ちゃんになぜ心配されたのかを尋ねる。


「覚えてない?夜中に千代ちゃん叫び声上げたと思ったら私達が来た時にはゲーゲーしてたんだよ?」


 そういや確かに吐いたような吐いてないような気が……


「その後かくって気絶したように寝ちゃったんだけど……覚えてない?」


「うん……」


 ダメだ……なんにも思い出せない…………いや、でも確か夢で……


「んんぅっぐぅ……!うぅぇぇ!」


「千代ちゃん大丈夫?ほら、お水飲んで……」


「う、うん……ありがと…………」


 幸いに前に吐いたので胃に物が残ってなかったからか、何とか吐きはしなかった俺はお水を飲みつつ、思わず吐きそうになる程だった思い出せた分の夢の内容を整理する。


 まず夢の中で俺には「彼氏」が居て、んで俺……というより私はどうやら無条件でそいつが好きで、構ってもらうためなら何でもする……と。

 とりあえずこれくらい大雑把でいい、細部まで思い出せばまた吐くだろうし思い出すのと整理はこれで十分だ。


「落ち着いた?」


「うん、おかげさまで。ごめんね、迷惑かけて。突然夜中に叫んだりゲーしたりしちゃって……ちょっと、いやかなり、とんでもなく気持ち悪い夢見ちゃったみたいで……」


 俺が男とあんな事するなんて……いくら何でも悪趣味過ぎるだろ…………


「いいよいいよー、毎年千代ちゃん風邪ひくからお世話するのも慣れてるしね。今回はちょっと珍しい内容だったけど」


「あはははははは……」


「さて、それじゃそろそろ私は部屋に戻るね。時間的にもそろそろ……」


「ねぇー、こーねぇまだぁー!?ウチもよーちゃんのお世話したいー!」


「ね?」


「ゆっくり休めそうにないなぁー」


「ふふふっ、それじゃあね」


 そう言ってテキパキと勉強道具をまとめ俺にヒラヒラと手を振って千胡お姉ちゃんが部屋を出ていくと、入れ替わるようにして千保お姉ちゃんがお菓子を抱えて入ってくる。


「よーちゃんもう大丈夫?気持ち悪かったりしない?」


「うん、もう大丈夫。所でそのお菓子は?」


「よーちゃんに差し入れよんっ!好きなのお選びーよー」


「んー……今はいいかなぁ」


 お腹は減ってるけど食欲はないし。


「そっかぁ……」


 あぁ!しょんぼりしちゃった!えぇっと、えぇっとぉ……


「そ、そうだお姉ちゃん!私汗拭いて欲しいなぁーって!」


「……!まっかせてぇ!女の子だもんね!やっぱりこーねぇみたいにわしゃしゃしゃしゃーってやられるのは嫌だよね!」


 この姉は実の姉をどう思っとるんじゃ……いやまぁ普段ならともかく今は千保お姉ちゃんの優しい拭き方の方が助かるけどさ。


 そんな事を考えつつ、元から汗を拭いてくれるつもりだったのかタオルを手にウキウキした様子の千保お姉ちゃんを横目に、俺はプチプチとパジャマのボタンを外す。


「ふみゅぅぅ……」


 ぬぅおぉぉ……流石千保お姉ちゃん、力加減とか拭き方が最高に絶妙だぁ……


「お加減いかがー?」


「しゃいこぉぉぉ……」


「ふふふっ、それはよかった。所でよーちゃんさ」


「んぅー?」


「言いたくないなら言わなくてもいいけど、一体どんな夢見たの?どんなのか知らないウチが言うのもあれだけど、正直あれは異常だと思ったよ?」


 やっぱ聞いてくるよなぁ……正直に話すべきか、話さざるべきか……


「……」


「ねぇよーちゃん、お願い、教えて?」


 仕方ない、ここで黙ってても不審がられるだけだし、何より心配かけたくない。今回ばかりは正直に話すとしよう。


 本当に心配そうな声色と、俺の背中を拭くタオルに僅かに力がこもったのを感じた俺は、簡略化しながらも夢の内容を正直に話す。


「なるほどねぇ……確かに、夢の中とはいえ自分の体が自分の意志とは違って勝手に行動するのは怖いなぁ……でもその夢の中の彼氏さんは嫌じゃ無かったんでしょ?」


「まぁ……多少は」


「いつも礼二君とか他の男の子とも話したりする時普通だし、男の人が苦手って訳じゃないのに不思議だねぇ」


「うん」


 まぁ、あんなに拒絶反応起こしたのは俺が元男だからなんだけどね。


「……ねぇよーちゃん」


「ん?」


「もし、もしだけどね、よーちゃんが自分の事で何か悩んでいたとしてもね、よーちゃんはよーちゃんだからね」


「……うんっ」


 俺が何かを隠しているのを悟ったのか、それでも俺にかけてくれた千保お姉ちゃんのその言葉に、俺は目頭が熱くなるのを感じるのだった。

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