最高に可愛い生き物
「こーんにーちわー」
「あっら!千代ちゃんいらっしゃい!久しぶりねぇ」
「あはははは。ご無沙汰してます」
ある日曜日のお昼前、礼二の家に白い七分袖のシャツに少し暗めの青のフレアスカート姿という、春も終わりに近い格好で俺はお邪魔していた。
「来てくれて悪いけど、まだ礼二寝てるのよ。ごめんなさいね」
「いえいえ、大丈夫ですよ。こっちこそいきなり来て申し訳ないです」
「いいのいいの!千代ちゃんならいつでも歓迎だから!前に来たのはいつだったかしら?一ヶ月くらい前?」
「確かそれくらいー……かな?」
体育祭終わってからすぐテスト期間だったからなぁ……
「もっと来てくれてもいいのよ?あの子だって喜ぶし」
「ふふっ。体育祭もテスト期間も終わりましたし、これからはまた毎日のように遊びに来ますよ」
「あら?テスト期間?」
「あ」
この反応は……
「礼二ったらまたテストの事黙ってたのね!」
「あぁぁ……やっぱり黙ってたのか……」
すまんな礼二、この間テストだった事バラしてしまった。でも黙ってた貴様が悪いから天罰だと思って諦めて受け入れろ。
「後でちゃんと成績見せてもらわないと」
「あはははは……手加減してあげてくださいね」
そんな世間話に礼二のお母さんと盛り上がっていた俺は、この賑やかさを聞き取ったのか家の奥の方からとてとてと近づいて来る足音を広い、すっと左に一歩ズレる。
すると一歩ズレた事により俺を認識したその足音の主は、満面の笑みを浮かべると勢いよく可愛らしく俺にむかって走ってくると──────
「ちよねーたん!」
「ゆーちゃんお久しぶりー!いい子にしてた〜?」
「ん!ゆーちゃいいこしてた!」
「そっかそっか〜♪」
はぁ〜♪優香ちゃん超可愛ええ……
ゆーちゃん事、今年で二歳になる「桜ヶ崎優香」ちゃんは屈んで受け止めるように広げていた俺の腕の中へ、勢いよく元気に飛び込んでくる。
「そんなえらーいゆーちゃんにはご褒美だっ!」
「ごほーびー!」
「ふっふっふ〜♪はい、ゆーちゃんの大好きなクッキーだよー!」
「くっきー!くっきーだー!」
作ったクッキー一袋持ってきただけでこんなに目ぇキラッキラさせるなんて……天使か?
「ふふふ、よかったねぇ優香ちゃん。千代お姉ちゃんにお礼は?」
「ちよねーたん、ありがとー!」
「どういたしまして」
「本当にいつもありがとうねぇ。この子ったら本当に千代ちゃんの事が好きみたいでね、あのバカ息子はまだ起きてこないだろうからそれまで遊んでやってくれない?」
「勿論ですよ!というかゆーちゃんと遊びたくてやって来たようなもんですから」
そう、今日俺が礼二の家に来たのは礼二と遊ぶ為ではなく、この今現在笑顔で俺のお腹にほっぺたをスリスリしているゆーちゃんと遊ぶ為なのである。
「それじゃあ私はちょっと買い物行ってくるから、千代ちゃんお願いね?」
「はい!任せてください!…………いやぁー、でもまさか俺が「お姉ちゃん」なんて呼ばれて喜ぶ日が来ようとは」
ほんっと、世の中何があるか分からないもんだ。
「ちよねーたん、ちよねーたん!」
「ん?なぁにゆーちゃん」
「あそぼあそぼ!」
「いいよ〜、何して遊ぶー?」
礼二のお母さんが家を出ていったのを確認した後、そう呟いた後ゆーちゃんを抱え家の中へと上がった俺は、遊んでとせがんでくるゆーちゃんにデレデレ顔でそう答える。
「たかいたかい!」
「おぉぉ……」
身長低い俺にそれを頼むか……若干この子も叶奈ちゃんと同じ毒舌のセンスがあるのかもしれんな。とりあえず……
「そ、そうだ!ゆーちゃん、せっかくだし新しいお遊びしない?」
「あたらしいおあそび?」
「そ!どう?やってみない?」
「やるー!」
「おー!流石ゆーちゃん、ノリがいいねぇ」
「えっへへ〜♪」
「それじゃあまずはお姉ちゃんのお膝の上においでー」
「はーい!」
ーーーーーーーーーーー
「っ……くぁぁ……よく寝た…………」
「ねぼすけー!ねぼすけだー!」
「あん?おい優香、そんな言葉使っちゃダメだって──────」
「この寝坊助がぁー」
「ってちっ、千代っ!?来てるなら教えっ!じゃなくて、優香に要らん言葉教えたのはお前か!」
「ね?おにーたんお目目ぱっちりなったでしょ?」
「うん!ぱちぱちなた!」
畳の上で正座している俺の膝の上でそう言ってはしゃぐゆーちゃんの頭を撫でながら、見事新しい遊び「兄を起こす妹」を錬成した俺は満足気な表情を浮かべる。
「これから朝は毎日ゆーちゃんがおにーたんを起こしてあげようねー?」
「うん!」
「ちょっ!?ふざけんなよ千代!」
「これまでほぼ毎日起こしてやってた私の苦労も考えろおにーたん」
「ぐっ……!」
「さーて、次は何を教えようかなぁ〜♪」
「かなぁ〜♪」
「頼むから変な事だけは覚えさせないでくれよ……」
流石の反抗期の兄も可愛い可愛い妹には弱いのか、楽しそうに教えて教えてと目の前で俺にねだるゆーちゃんを前にそう肩を落として言うのであった。
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