勝利の凱旋は頼もしい背中と共に

 少し錆びた途端の看板や無造作にガラス戸へ貼られたハゲ掛けのポスター、そんなごちゃごちゃとした夕焼けのオレンジ色の光に包まれた走り回る子供達や楽しそうにお喋りをする主婦の居る通り慣れた道のど真ん中……


「納得……行かない」


「ん?」


「納得行かなーい!」


「うわっ!?ちょちょちょっ!暴れんな!」


 俺はそう声を上げると礼二の背中の上でじたばたと手をばたつかせ、今のこの扱いに不満を唱える。

 そして何故こんな往来のど真ん中で俺が礼二におんぶされているのかと言うと……


「ったく、急に暴れんなよ……落っこちたらどーすんだ」


「うぐっ……!だってぇ……!!」


「だってもクソもあるか。もし落っことして頭でも打たれたら俺が殺されるんだからな!主にと言うかお前の姉達に!」


「うぐぐ……!確かにそうだけどぉ……!せっかく逆転大勝利っ!って綺麗に決着着いたのに!帰りの凱旋がおんぶとかありえないし納得行かなーい!」


「仕方ねぇだろ、その最後のやつでお前足やったんだから」


 そう、体育祭の最後の最後にあった女子のリレーで俺は見事一位を掴み取り団を勝利に導いたものの、もろ足首をくじき礼二のお世話になっていたのだった。


「ぶー」


「ははは、にしても今回もダメだったかぁ……一体どうやったらお前に俺は勝てるんだ?」


「そうだなぁ、とりあえずはテストの度に私に頼らなくなったらじゃない?」


「それはちょっと無理かもなぁ」


「諦めはやっ!せめてもう少しは努力しなよー」


「他の分野で勝つから勉強はいいんだよ勉強は」


「む、そんなこと言ってたら勉強教えて上げないよ?」


「ぐっ……わーったよ、勉強もちゃんとする。これでいいか?」


「ん、よろしい。でもまぁ……」


 正直、もう前世チートが通用する勉学以外はもうタイマンだと礼二に勝つなんて無理だろうけどね。


「ん?どうかしたか?」


「いやぁー、礼二も大きくなったなぁーって」


「お前は俺の母さんか何かか」


 そんな適当な事を言いつつ、俺は今自分が身を預けているまだ十代とはいえ確かに男の子の物と分かるがっしりとした硬い背中を感じ、そう思わずには居られなかった。


 こうやってちゃんと子供達の成長を感じられるっていうのが親の特権だったりするんだろうなぁ……まぁ俺の場合は自分自信もひしひしと成長感じてるんですがね。

 え?お前は背も何も変わってないだろって?ソンナコトナイモーン。


「っと、もう家か。ありがとね礼二、助かったよ」


「なぁに、俺とお前の仲だ。気にするまでもねぇよ」


「ふふっ、そうだね。この間お風呂で「ふふふ、俺が居れば百人……いや、千人は軽い!」とか言ってるの知ってるくらいの仲だもんね」


「ちょっ!おまっ、それはっ!」


「あははっ!ほらほら、そんな暴れると大切な幼馴染おっことしちゃうぞー?」


「落っことしてやろうか!?」


「なはは、お詫びにお礼って訳じゃないけど今日は私の家でご飯食べてってよ。おばさんには許可貰ってるし」


「ったく、仕方ねぇなぁ。飛ばすからしっかり捕まってろー……よっ!」


「ぬぅおぁぁぁ!」


 こうして俺と礼二はそんな風に互いに遊び、笑い合いながら、夕暮れの帰路を辿るのであった。

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