当日
『続きましてー、プログラムナンバー六番、男子100m走です。出場する生徒は入場門に集合してください』
「ふひぃー!疲れたぁー!」
「おつかれちよよん!」
「ちよちーおつかれー」
「おー、二人ともありがとー!」
ぽかぽかと暖かな春の陽気の差す中で、体育祭と言えばというアナウンスの流れる賑やかな会場の端で先の女子50m走でヘロヘロになった俺は二人に出迎えられていた。
「いやー、なかなかの活躍っぷりだったなちよよん!」
「最初から接戦だったけど、最後の最後つこける位の勢いでゴールに飛び込むとは思わなかったよー。女の子なんだから頭からいって顔に傷がついたりしたらどうするの?」
「あはははは……でもそのおかげで一位取れたんだし、そこん所は勘弁してよ」
「全く、ちよちーはいつもこうなんだから。でも凄いね、まさかここまでいい勝負が出来るなんて」
「びっくりだよなー!」
「それに関しては俺も全く同じ意見だ」
「俺?」
あっ、やべ。思わず素が出てしまった。えっと、えーっとぉー……
「ほ、ほら綺月ちゃん!それに叶奈ちゃんも!せっかく今リード取れてるんだから、この機械に赤組の……礼二と神井君にちょっかい出しに行くよ!」
「なんやかんやでちよよんもいい性格してるよなぁー」
「あはははは……まぁ、ちよちーらしいけどね」
「さぁさぁ行くよ!れっつごー!」
ーーーーーーーーーーーーー
「んで、俺と神井を探し出す頃には次の競技が終わってて、見事に逆転されていたと」
「ちくしょおぉー……」
「なんというか、花宮さんらしいと言うか……」
「私らしいってなんだ私らしいって!怒るぞこらー!」
「こればっかりは運とちよよんのタイミングの悪さだかられーたろーとカミカミは悪く無いぞぉ!」
「ぐはぁっ!うぅ〜、綺月ちゃーん!」
「あはははは、よしよし」
叶奈ちゃんの相変わらず切れ味鋭い攻撃に大ダメージを受けた俺は、んばっと綺月ちゃんの胸に飛び込み綺月ちゃんに頭を撫でられる事で慰めて貰い始める。
「やはりまな板ぁ〜」
「誰がまな板よ!」
「痛い痛い痛い、綺月ちゃーんギブ、ギブアーップ、降参デース!」
だからグリグリやめてぇ!
「もぅ、今回だけだからね?」
「ありがとー」
まぁ、伝統みたいなもんだから今後もやるんですけどね?
「んで、結局俺らを探してて逆転されていたのは分かったが、なんで探してたんだ?」
「あー……えーっと、それはぁー……」
点数リード出来たからその場の勢いで煽りに行こうとしてたなんて……口が裂けても────────
「点数勝った勢いでれーたろーとカミカミにちょっかいかけるために探してたんだぞ!」
「叶奈ちゃぁんっ!?」
全部!全部言いおったでこの子おい!
「ほぉー……そんなことしようとしてたのか」
「いや、あの、それは」
「でもそうしたい気持ちも分かるよね。特にいつも花宮さんに勉強お世話になってる礼二には」
「…………まぁ分からんでもないな。実際、ここまで食いついてくるとは思ってなかったし」
「ふぇ?」
正直怒られるのを想定して頭を手で覆い縮こまりかけていた俺は、思わぬ礼二のデレに間抜けな声を漏らしながら首を傾げる。
「ほんとほんと、あの会話から一ヶ月くらいなのによくここまで出来たと思うよ。一体どれだけキツい練習したんだい?」
「いやぁー、あれは練習って言うよりも……」
「勉強?」
「それだ」
「あはははは……」
運動能力の差を埋めるには技術しかねぇって事で、令和の時代の早く走れるとか体育祭で勝つ方法、団体競技のコツなんかを伝えただなんて……
「これこそ本当に口が裂けても言えねぇ……」
「?まぁでも、何をどれだけ頑張ったか知らねぇが、勝つのは俺達紅団だ」
「!ほぉ、今まで私に得意の運動でも勝ったことが殆どない礼二に勝てるとでも?」
「はん!今年は去年と違って別の組だからな、これで白黒ハッキリ付けられるってもんだ……絶対勝つ」
「確かにそうねー、私達いつも同じだったからこういった勝負なかったもんねー……絶対負けない」
「おー!あそこまで対抗心メラメラな二人、叶奈初めて見たぞ!」
「確かに、俺も初めて見た」
「私も初めてだわ…………でも、いつもより楽しくなりそうね」
そんな会話をする三人の前で、バチバチと俺と礼二は火花が散る様にじっと睨み合うのであった。
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