暗闇作業

「勝ったー!」


 意外となかなか接戦だったぞー!


「千代は強いなぁ」


「あら?浩さん負けてしまったんですか?」


「いやー、思ったよりも千代が強くてなぁ」


「ふふーん♪」


「あらぁー。それじゃあ千代、次は母様とやってみませんか?」


「母様が!?」


 花札とか全然やらなそうなのに、ちょっと意外!


「なになにー?千代ちゃん母様に挑むのー?」


「おぉ!よーちゃん怖い物知らずだねぇ!」


 え、母様そんなに強いの。


 げこげことカエルの鳴き声が聞こえてくる夏の夜、おじいちゃんと兄は外出してるものの夕食にお風呂にと済ませ、花札やテレビで家族団欒を楽しんでいた時の事────


「ちょっと扇風機つけて……それじゃあ母様、いざ勝負!」


「ふふふっ、かかってらっしゃ────」


 パチン。


「「「「「えっ?」」」」」


 小さなパチンという音と共に今の今まで明々と点っていた電球の光が突然消え去り、BGMと化していたテレビは何の音も出さなくなり、俺達家族は素っ頓狂な声を上げた。

 そして俺は……


「なになになにっ!これってこーちゃん?よーちゃん?」


「ひゃん!ちょっ、どこ触ってるのよ千保ちゃん!」


「こらこら二人とも騒がないの。停電……かしら」


「いや、お隣は電気ついてるな。となると今の扇風機でヒューズが飛んだかな……ちょっと確認しに、ん?誰だ?俺の腕に抱きついてるのは」


「私違うー」


「ウチもー」


「私も違いますよ」


「となると……千代か」


「だ、だって……いきなり真っ暗になったんだもん……」


 だからこう、反射的に横に居た父様にガシッと……


「やっぱりよーちゃん怖がりさんだねぇ」


「そこが可愛いんだけどねー」


「う、うるさい!」


 父様の腕にがっしりとしがみついて居たのだった。


「ははは、大丈夫だぞ千代。父様がついてるからなー。ほら、一緒にヒューズ治しに行こうな?」


 くそぅ……完成に俺が怖いの苦手な娘扱いされてる……でもまぁ、実際そこまで暗いの得意な訳じゃないし……


「……うん、いく」


 ここは父様について行くとしよう。


「よし、いい子だ。しっかり手を繋いでおくんだぞ?」


「わかった」


「それじゃあ俺と千代はヒューズ治してくるから」


「わかりました。気をつけてくださいね」


 縁側から差し込む僅かな月明かりの中、父様は母様にそう伝えると俺の手をしっかりと握り直し、真っ暗闇な家の中へと踏み込んだのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


「よし、やっぱりここにあったな。換えのヒューズとロウソク。千代、おいで」


「はーい」


「これをちゃんと持ってるんだよ?」


「うん、わかった」


「よし、それじゃあ付けるからな」


「おー」


 あれから壁伝いに物置までやってきた俺は、ジュボッというマッチを擦る音と共に手に持たされた手燭のロウソクに灯った火に思わず声を上げる。


「どうだ、あかるくなったろう?」


「あかるーい」


 やっぱり明かりがあるとほっとするよなぁ。というかもう慣れたけど、ブレーカーじゃなくてヒューズって初めて聞いた時はそんなのあるのかって驚いたなぁ。


「さて、それじゃあ目的の物も手に入れたし、改めてヒューズを治すとしようか。千代二等兵!」


「はっ!」


「貴殿に非常に重大な命を課す!今からヒューズを治すこの手元を照らすのだ!」


「わかりました!」


「よろしい!では作業開始だ!」


 俺の気持ちを解すためか、そんなくだらない時々やるやり取りを父様は俺と済ませると、横にある椅子の上に俺を立たせカチャカチャと手際よくヒューズを取り替え始める。

 そしてその手際に俺が見惚れている間にその作業は終わってしまい……


「よし、これで電気が……ついたな。ありがとう千代、助かったよ。千代?」


「はっ!」


 も、もう終わったのか!早かった……


「どうかしたかい?」


「えっと、えーっとね……父様かっこよかったなぁーって」


 作業する姿がなんというか、ずっと見てられるというか……


「はははっ、嬉しい事言ってくれるじゃないか。でもな千代、そういう事はもっと素敵な人に取っておくものだよ。いいね?」


「……うん」


「よろしい。それじゃあ、居間に戻ろうか」


「はーい!」


 こうして、ちょっとした暗闇の中、俺は初めての何かを感じる事が出来たのであった。

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