三姉妹による帰省旅

「ふぃー」


 例年通り相変わらず席ガラガラだけど、朝早くからの結構な重労働には助かるー。


「千代ちゃんお疲れ様、大丈夫?」


「なんとかー。でもずっと抱えて歩くとなるとやっぱり地味に重いんだよねー」


「お姉ちゃんが代わりにもとっか?」


「ううん、大丈夫。だってこれはおばあちゃんから私が貰った物だから」


 辺りには朝霧が立ち込み、周囲の空気は薄らと青みがかっている朝も飛びっきり早い時間。

 風呂敷に包まれた三味線の入った箱を抱え直し、俺は隣に座っている千胡お姉ちゃんにそう言うのだった。


「おーい二人ともー!飲み物買ってきたよー!」


「あ、ありがとう千保ちゃん」


「千保お姉ちゃん助かるー」


 ん?これって……


「ってコタ・コーラじゃない。朝からコタ・コーラかぁ……いやまぁ私も好きだけどコタ・コーラ」


「でも三本も買うなんて……」


 まだ令和とかと違ってコタ・コーラそこまで安い訳じゃないのに……


「にしし、せっかくの電車だしね!ちょっと贅沢する方が楽しめるでしょ!」


 俺はいい姉を持ったなぁ……


「よっ!千保お姉ちゃんふとっぱら!」


「そうそう、実は最近お腹出てきて……じゃないわ!そんな事言うよーちゃんはほっぺぷにぷにしてやるー!」


「むぅあー!やめへー!」


「ふふふっ、二人ともあんまり騒がないの。ほら、そろそろ電車も出発するし、お弁当でも食べながら景色でも見ましょ」


「「さんせーい!」」


 まだセミすら鳴きだしていない朝早く、そんなちょっとした事できゃっきゃと盛り上がる俺達三姉妹を乗せ、電車はガタンゴトンと音を立てて目的地へと動き出す。


「おばあちゃん元気にしてるかなぁ」


「今年は暑かったもんねー。元気にしてるといいけど」


「あのばあちゃんが元気じゃない姿は想像出来ないけどねー」


「「確かに」」


 そう、今日は八月十三日、ご先祖さまが帰ってくるこの日俺達三姉妹はおばあちゃんに顔を見せに行くべくこの電車に乗っていたのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


「「「ついたー!」」」


 いやー、なんとか無事につけましたな。


「途中千保ちゃんが乗り遅れそうになった時はヒヤッとしたよー」


「ねー、あれはもうダメだと思った。千保お姉ちゃんあと一歩の所でドア閉まるもん」


「車掌さんが気付いてくれなかったら次の電車まで一人っきりになる所だったからね。本当によかったねー」


「もうそれはいいじゃん!ちゃんと通り過ぎる時に一回閉じたドア開けてくれたお礼したし、お菓子食べれたんだから!」


「お、いたいた」


 この声は!


「とーさまー!」


「おぉっと!二日ぶりだな千代ー!元気にしてたかー?」


「うん!」


 目的の駅に着き、そんな道中の話で盛り上がって居た所、軽トラの傍に居る迎えに来てくれた父様に俺は猛ダッシュで飛び掛り、父様に抱き抱え上げて貰う。


「そうかそうか。とりあえず三人ともちゃんと無事に来れたみたいだな。千保はなんかあったみたいだが」


「そうそう、父様聞いてよ。千保ちゃんったら────」


「わー!わー!ほら!暑いし早く行こ!じゃないとお昼ご飯無くなっちゃう!」


「それもそうだな。よーし、それじゃあ出発と行こうか!ほら、皆乗った乗った!」


「私助手席乗るね」


「じゃあウチ荷台ー!」


「私も荷台ー!」


「二人とも荷台好きねぇ」


「だってなんか」


「楽しいもん」


「「ねー!」」


 だって荷台に乗るなんて田植えの時かこういう時じゃないと出来ないもん!やるしかないでしょ!


「はははっ。それじゃあ発車するから、二人は倒れて怪我したり落ちたりしないようにキチンと掴まってるんだぞ」


「「はーい!」」


 父様の注意に荷台に乗った俺と千保お姉ちゃんが大きな声で返事をすると、軽トラは少し大きなエンジン音とギアチェンジの音と共に四日の時を過ごす母様の実家へと俺達三姉妹を乗せて動き始めたのであった。

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