皆でお参り
「母様準備できたー」
「ありがとう千代、それじゃあ次は片栗粉用意してくれるかしら」
「はーい」
ふぅ、流石にこのお正月の台所に立たせてもらって三年目になると少しは動き方も慣れてくるな。それでえーっと、確か片栗粉は右端の棚に────
「おはようございまーす」
「───!」
この声はっ!
「かーさまっ!」
「あら?意外と早かったわね。千代、悪いけど御出迎えを────……ってもう行く気満々ね。それじゃあ御出迎えお願いしますよ?」
「はいっ!」
玄関の方から聞こえてきたそのここ数日聞けなかった声を聞き取り思わず足踏みしていた俺は、母様にそう言われると台所を飛び出しトテトテトテと廊下を走り────
「とーおーさーまぁっ!」
「おぉ!千代!いい子にしてたかー?」
「うんっ!」
だからもっと頭を撫でろー!俺に甘えさせろー!
靴を脱ぎ、家の中へと上がってきた父様の胸へと飛び込み、頭を撫でられながらニヤけた顔でこれでもかという程顔をすりすりと擦り付けていたのであった。
「お、浩さんあけましておめでとうございます」
「おぉ、忍さん。こちらこそあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「いえいえこちらこそ。千代ちゃんお父さん早く来てくれてよかったねぇ」
「うんっ!」
あと少し遅かったらもっとスキンシップ激しくなってたに違いない。
「さて、それじゃあ浩さんも来たことだし、そろそろ皆も呼んで御参りに行くとしますか」
父様が来たことにより親族とその嫁夫が揃った事を確認したおじさんはそう言うと、俺の頭を一撫でして皆を呼びに居間の方へと歩いて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
うわひゃあー。
「やっぱり凄い人だぁー」
「うちの街の正月も神社は凄いが、ここはまた一段と凄いよなぁ。どうしてだったっけ恵さん」
「ここら辺には神社が無い村や街が多いので、毎年最寄りの神社という事で近隣の村や街からお客さんが沢山来るんですよ」
なるほど、だからあの町よりもこっちの方がいつも人多かったのか。
まだ早朝にもかかわらず、足の踏み場もない程混雑した境内でふと不思議に思っていた父様の質問で分かり、思わずなるほどと俺が手を叩いているとすぐさま姉達に手を掴まれる。
「千代ちゃーん、ちゃんとお手手つないでようねー」
「うんうん、こんなに人多いからよーちゃんみたいに小さいと直ぐに見失っちゃうもん」
むかっ。
「ちいさくないしー、流石に今年は大きくなるしー」
「えー本当ー?小さい方が可愛いよー?」
「そうそう、大きいと色々大変なだけだやでー」
「千保ちゃんのそれは嫌味?嫌味かしら?」
「こんな大きいのぽよぽよさせよってからにー」
「そうよそうよ!私達二人の分も吸い取ってるくらい大きいくせにー!ねー千代ちゃん」
「うむ、もみもみしてやる」
揉むとでかくなるって?知った事か、俺達の胸も吸い取ったこの胸は俺の胸でもあるんだ。
「ちょっ、よーちゃんこんな所で!」
「やめなさい二人共、人前ではしたないですよ」
「「はーい」」
参拝の列に並びながらキャイキャイと俺達三姉妹はそんな風に戯れていたが、母様にそう言われた途端大人しくなる。
「ははは、うちの娘達は元気で何よりだ。あいつもバカやらなきゃこれたろうに」
あのバカ兄か……ほんと、おじいちゃんと喧嘩なんてしなきゃ来れたのに。
「あれ凄かったよねー。おじいちゃんにスパーンってふっ飛ばされて川に落ちるなんて」
「まぁお陰様でにぃは風邪ひいて今年のお正月は来れなかったんだし、ウチとしては逆に助かったわー」
「あんまり実の兄にそんな事言うもんじゃありませんよ」
「そうだぞ幾らいつも酷い目に合わされてても……っと俺達の番みたいだな」
「はい皆、ちゃんと二礼二拍手一礼するんですよ」
「「「はーい」」」
パンッパンッ。
「よっし」
「千代ちゃん何お願いしたの?」
「ふふふ、さぁ何をお願いしたでしょー。というか千胡お姉ちゃん、神社はお願いじゃなくて「今年一年頑張りますから見ていてくださいね」って誓いを立てるといいんだよ」
「え、そうだったの?」
「ウチも知らなかった……よーちゃん物知りー」
「確かにどっかでそんな事きいたきがするなぁ」
「でしょー?へっぷしっ!」
「ふふふっ、体冷えちゃう前に帰りましょうか」
「ふゃあーい」
こうして、俺のお正月はゆったりと過ぎていったのであった。
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