今年最後の一番槍
「んん……!くっ……!ふぬぬぬぬ……!」
ギヂヂヂヂヂヂヂ……ギヂヂヂヂヂヂヂ……
後……後もうちょっと……!
「しーまーれー!」
気合いを入れるべく声を出しながら巻きまくって固くなった壁掛け時計のゼンマイを俺は更に回す。するとゼンマイは鈍い音を立てながら更に周り……
ギヂヂヂヂヂヂヂ……カチンッ。
「よーし!」
「お、回しきったみたいだね。千代ちゃんお疲れ様」
「おじちゃん私疲れたー」
ついでにずっと肩車されてたから股が痛いー。
「あはははは、ごめんな千代ちゃん。でももう少しだけ頑張ってくれないか?お年玉は弾むからさ」
「仕方ないにゃあー。次は何すればいいのー?」
「次はだねぇー────」
母様の兄弟であるおじちゃんに肩車されながら甘い餌を持ち出され、そう表面上は渋々としながら俺はおじちゃんの指示に従い止まっていた母様の実家の時計を弄っていた。
何故こんな事をしているのかというと……
「おぉ!動き出した!と言うことは……」
「あぁ、お疲れ様千代ちゃん」
「やったー!おーわりぃー!へぷしっ!」
「あらら、体冷えちゃったかな?大丈夫かい千代ちゃん」
「大丈夫ー。でもこれでお正月皆不便しない?」
「そうだよー。皆時間が分かって大助かりさ。さてそれじゃ時計も終わった事だし、居間で焼き芋食べながらストーブで暖まろうか」
「はーい!」
父様と兄より一足先に母様の実家へと来ていた私達は、いよいよ明日へと迫ったお正月の準備をしていたのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「おーい、皆そろそろ行くぞー」
「「「「「はーい」」」」」
「ほら、もう行くそうですよ。起きなさい千代」
「んんぅ……かーさま…?」
いつの間に丹前着せられて母様に膝枕されてたんだ?
「ふふふ。いつも早寝してるからかしら、ぐっすり寝てましたよ千代」
えーっと確か、十一時くらいまで暇だからって炬燵でおじちゃん達と花札してたらなんだか瞼が重くなってきて……
「気がついたら寝てて母様の元に……って事か」
「どうしました?」
おっと、思わず声に。
「えと、母様のお膝気持ちいいなぁーって」
「あらまぁこの子ったら。さっ、私がここで待っててあげるから、皆が出る前に顔だけ洗ってらっしゃい」
「ふゃーい」
母様にそう言われ、もぞもぞと母様の上から起き上がった俺は洗面所へと向かい顔を洗った後、寒い寒いと言いながらも親戚の皆と一緒にお寺へと辿り着いたのであった。
服の上からでも分かるこのぷにぷにふにふにな柔らかさ、そして何より変え難いこの温かさ!
「あったかー」
いやー、これ無しじゃ途中でギブアップしてましたね。
「千代ちゃんほんと可愛いなぁ〜♪千胡ちゃんが羨ましいよ」
「えへへ。良いでしょ春ちゃん、うちの妹すっごい可愛いんだから」
「毎年見てるから知ってる〜」
「お、運がいいな。ちょうど人が途切れた所みたいだ」
「あらそれは丁度よかった。今年は誰が一番に行きます?」
「そうだなぁ……せっかくだし今年は千代ちゃんに打ってもらおうか。誰か叩きたいやつは居るか?……よし、居ないなそれじゃあ千代ちゃん、こっちにおいで」
「は、はい!」
思わずそう硬い返事を返しながら、いつもなら親戚の男の子の誰かが叩くと思い、親戚のお姉ちゃん達に抱きつかれていた俺はぽてぽてといつも音頭を取るおじさんの元へ向かう。
な、何させられるんだろ……イケニエ?
「毎年見てるからわかると思うけど、背が届かなかったらおじちゃんが抱っこしてあげるからこの紐を握って後ろに引っ張ってから叩きつけるんだよ?やれる?」
あ、イケニエじゃなかった。ただ除夜の鐘の一番貰えただけだった。それなら断る理由はない、というかむしろ願ったり叶ったりだ!
「やれます!」
「お!やる気もいっぱいみたいだな。よーし、それじゃあ今年最後、一発でかいのかましてやれ!」
「はいっ!」
よし、ギリギリつま先立ちすればだけどなんとか届くな。それじゃあ────
「いきまーす!」
「いいぞー!」「どでかいのやれー!」「「「千代ちゃん頑張れー!」」」「持っていかれるなよー!」「派手にいけー!」「大きいの頼むぞー!」「綺麗に決めろよー!」
その後おじさんに軽くコツを教えて貰い、自分の身長が届く事を確認した俺は、そう言うと皆の注目を浴びる中思いっきり紐を体を後ろに逸らして引っ張り────
「せーのっ!」
ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……
鐘を思いっきり綺麗に突き、見事いい音を出す事に成功したのであった。
こうして俺の一年は幕を閉じ、また新たな一年を迎えるのだった。
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