一番上のお姉さん

 お正月から少しだけ時間が過ぎ、真っ白に染まっていた道にピンクの花びらが舞い散る様になった頃──────


 眠い……凄く眠いぞ……


「昨日も九時には寝たのに……ふゃあぁぁぁ……」


 これが春眠暁を覚えずか……


「ちーよちー!」


 む、この声、というか呼び方は……


「綺月ちゃんお久しぶりー!元気にしてたー?」


「うん!元気にしてたよー!……ちよちー?」


「いやその……綺月ちゃん大きくなった?」


 やはり女子の恒例なのか通学路で案の定むぎゅうっと綺月ちゃんに抱きつかれた俺は、ふと何だかいつもよりも体が包み込まれてる感じがしてそう問いかける。


「ほんと!?」


「う、うん。とりあえず離してくれる?」


「あ!ごめんねちよちー。うぇへへへへ」


「……そんなに大きくなったって言われたのが嬉しいの?」


「だってぇ〜。今日から私達六年生だよ?一番お姉さんなんだからやっぱり背も高くなくっちゃ!」


 あぁ、そうだった。普段全然こんな事ないから忘れてたけど、綺月ちゃんってお姉ちゃん扱いされるの大好きだったな。


「で、でも身長が高ければお姉さんって訳じゃないから、そこはこれから頑張らないと」


「分かってるよぉ!はあ〜、楽しみだなぁ〜。元気な子かなぁ、可愛い子かなぁ。それとも恥ずかしがり屋さんかなぁ」


「ま、いつもみたいに恥ずかしがるよりはマシか」


 そんな事を目の前でだらしない顔をしながら言ってる綺月ちゃんに思いつつ、俺も誰の手を引く事になるのかなぁと少し期待と不安を感じていたのだった。

 そう、今日は新しい学年の始まりでもある入学式が執り行われる日なのだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「続きまして、在校生代表からの歓迎の言葉です」


 と、俺も心の中で一年生の手を引くのを少しだけ楽しみにしてたものの……


「新入生の皆さん、この度は入学おめでとうございます。私達在校生一同は皆さんの入学を心から歓迎しております。さて、この今日から君達が通う事になる────」


 どうして俺だけこんな目にぃぃぃ!


 ギリィっと思わず手に持った祝辞の紙に力をいれてしまいながら、全校生徒の前に立ちながら俺はついさっき渡された歓迎の言葉を読み上げていくのだった。


「はぁー……なんとかやり切った」


「ちよちーお疲れ様。大変だったね」


「でもビシッと決まってて凄くかっこよかったぞ!」


「ありがとう二人共。はぁー、疲れた疲れた」


 なんとか無事歓迎の言葉が終わらせ、席に戻ってきた俺は二人にお疲れ様と言われながらよっこらせと椅子に座り、パッパッとスカートを整える。


「でも災難だったねぇ。まさか先生達の不備でちよちーに話通ってなかったなんて」


「もうほんと勘弁してくれーって感じだよ」


 あそこで先生にまたあのお店に連れてってあげるって言われなかったら絶対やだって言ってたのが分かるもん。


「でも本当よくあの短時間であそこまでできたなちよよん。叶奈じゃ絶対に無理だぞ!」


「流石はうちの学校で一番なだけはあるよねー」


「んもー、二人共褒めないでよー」


「はーい、三人共。無茶なお願いしたのは申し訳ないけど、まだ入学式中だから静かにね」


 おっといけない。


「「「はーい」」」


 こうして、初っ端からバタバタとしつつも、俺の小学生最後の一年が幕を開けたのであった。

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