あの日の噂
あの話し合いから数日が経ち────
「あ、女帝だ」
うっ……
「女帝ちゃーん」
うぐっ!
「よ!女帝!」
うぐぐぅー!
「よ!ちよよん!凄いあだ名?二つ名?ついたな!似合ってないぞ!」
「似合ってないのは私が一番わかっとるわい!このー!」
なんだ女帝って!女帝って!
「ひひゃいひひゃいひほほふひゃい」
「あはははは……でもごめんねちよちー、私の為にやったばかりに女帝ふふっ……なんて」
綺月ちゃんにまで笑われた!
「別にいいよぉ、誰も不幸にならない一番いい結果になったんだから」
「あ!待ってよちよよーん!」
「ごめんよちよちー」
「ぷー!だ!」
俺は「何故か」女帝と呼ばれていた。
そんな俺はぷくぅっと頬を膨らまし、ひとしきり叶奈ちゃんのほっぺたを引っ張った後、そう言って追いかけてくる二人の前をツカツカと歩いていく。
一体何があったのか、それは二日前へと遡る────
ーーーーーーーーーーーー
「な、何よ、放課後教室に残れって」
「ふふふっ、ちょーっとだけ貴女達と「お話」しようと思って」
夕暮れの教室、木造建築の校舎の窓から差し込む夕日を浴びながら、綺月ちゃんをいじめていた女の子グループを前に俺は笑みを浮かべていた。
さて、それじゃあ先ずは────
「いやー、貴女達には私も叶奈ちゃんも感謝してるのよ?それを伝えようって思ってね」
「感謝?あぁ、宫神宮の事?なによ、いじめられてる所見たってのに感謝なんて、やっぱり花宮さんも迷惑してたんじゃない」
誘導完了、言質確保♪
「やっぱりただのお家の娘が立派な御屋敷に住んでるような花宮さんや伊部さんとだなんて釣り合うわけが無いのよ」
なんだその理論、というか叶奈ちゃんだけじゃなくて綺月ちゃんも立派な日本屋敷に住んでるし、俺達三人の中じゃ俺の家が一番貧相なんだが……なに夢見てんだこいつ。
「まぁでも、私の家もそこそこお金持ちだし、これを機に仲良くならないかしら?私達なら仲良くなれるはずよ、同じ迷惑してた者同士、ね」
そう言ってこのクラスの女子グループの中心であるその子が手を差し出して来たのを見た俺は、ニコッとさらに笑顔を深めると────
「えぇそうね、とーっても迷惑してたわ」
「ふふん♪なら今日から私と貴女は────」
「貴女にね?」
「ほへ?」
勝ち誇っていた顔から一点、俺の一言と共に彼女を取り巻いていた女子達が教室から次々と立ち去って行くのをみて、その中心であった女子は呆気に取られた顔になる。
「えっ、ちょっ!あんた達!?」
「おぉ、まさかここまで効果覿面だとは」
「あんた……一体何したのよ!」
「何って……ちょっと「お話」しただけだよ?」
この年の子はまだ純粋な子が多いからねー。
ちょっと綺月ちゃんが本当は神社の家の子って教えて「そんな子いじめてたらバチが当たるよ」って言ったら直ぐにもうやらないって言ってくれたよ。
「お話!?ただ話しただけであぁなるわけないでしょ!?」
「じゃあそれだけ貴女の人望がなかったんじゃない?」
「んなっ!?そ、そんな訳────」
「いやいや……人を虐めるようなやつの信頼なんて、自分に不利益があるって分かれば一瞬で切り捨てられるもんでしょ?」
慌てふためく彼女に俺はころころと笑いながらそう言うと、そろそろトドメを刺すべく喋り始める。
「まず最初に、親とか先生に泣きつこうとしても無駄だよ」
先生とか親を押さえるのに父様の力を借りざるを得なかったのだけは癪だけど。
「な、なによ!いくらあんたが力あるからって────」
「はいはい、えーっとまず貴女が綺月ちゃんにやった事を上げていこうか!なぁに、時間はたーっぷりある、これから一つ一つ目の前でやってあげるから、しっかり見ておくんだよ」
にっこりとまるで氷のような冷たさの笑みを俺は浮かべながら、ゆっくり、時間をかけ、彼女に一つ一つ、綺月ちゃんが受けた事と同じ事を俺は施して言ったのだった。
そして最後には彼女は俺の事を「女帝」と呼ぶように……
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「って聞いてるけど」
「違うわい!そんな事やってないわい!」
叶奈ちゃんから俺が当日やったとされる事がどんな噂をされているか聞かされた俺は、全力で否定しつつ実際に何をしたか勢いで説明を始める。
「確かに呼び出して取り巻きの子達は事前にそう言って解散させたけど!あの子にやった事は反省するまで永遠とお説教しただけだって!」
その結果夕方までかかったんだけどさ!
ちなみに、父様経由で学校の先生、その子の親には心配しないよう、協力するように呼びかけてもらっていた為、特に騒ぎになる事はない。
「うへー、ちよよんのお説教かぁ……」
「あれを夕方まで……すごいなぁ」
「二人共酷くない!?」
「まぁまぁ。でもそのちよよんのおかげでみやみやは虐められなくなって済んだんだしな!」
「うん、ちよちー、本当にありがとうね!」
「んもぅ……どういたしまして」
こうして、綺月ちゃんのイジメ問題は解決したのであった。
そして時は流れ……
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