向かい合い話し合い
「えー、向かいましては右側ー。この街の有名所と言ったら外せない花見屋の末娘、濡烏の髪を持つ商売地区のみんなに愛される「黒烏髪の天使」ちよよんこと花宮千代ー」
「ちょまてぇい!」
なんだその二つ名みたいなやつ!いやまぁ確かによく「今日も綺麗な濡烏の髪だね!」って言われるけど!
「続きまして左側ー」
いや無視かーい!
「この街それぞれ一つしかないの神社仏閣を取り仕切る隠れた名家の愛娘、大事に大事にされているほわほわふわふわかわいい女の子、みやみやこと宫神宮綺月ー」
「ち、ちょっとかなちーやめてよー」
「それではただ今よりお話会を始めます」
運動会から丸々一週間使い何とか風邪を直した俺は、放課後綺月ちゃんからいじめの件を聞き出すべく叶奈ちゃんを間に挟み綺月ちゃんと見つめ合っていなかった。
「はい、という訳で叶奈は難しい事わかんないからな!お部屋は貸すから好きにお話してていいぞ!それじゃあ後でお菓子持ってくるなー!」
「あ、ありがとー」
「また後でねー」
バタン。
「……はぁー…………全くもう、すっかり気が抜けちゃったね」
「だねー、あんなに緊張してたのに」
「それじゃあ綺月ちゃん、とりあえず説明、お願いできる?」
「うん……えっとね、最初にいじめられたのは夏休み前でね────」
当時の事を思い出して怖くなったからか、きゅっと可愛らしい小さな手を握りしめながらも綺月ちゃんは俺にポツポツとどんな事をされたのか、何を言われたのかを話してくれた。
「……なるほどね。つまりいじめの発端は「あの子達が綺月ちゃんが私と叶奈ちゃんと仲良くしてるのが気に入らなかった」って事か」
「う、うん……多分、そうだと思う」
「なるほどねぇ……」
そんな理由で……いや、これが理由だからこそ……か。
綺月ちゃんの話してくれたいじめの発端は、言うなれば「あの二人にお前は相応しくない」という事だった。これがどういう事かと言うと、俺達三人の生れた家に理由がある。
「そうだよね、私達二人と比べたら綺月ちゃんのお家の名前はあんまり知られてないもんね」
「うん」
そう、今更ながら俺達三人娘はこの街の知らない人は居ない程有名な、いわゆるこの街の顔であるお家の娘なのだ。
具体的にどういう事かと言うと。
まずはこの俺、花宮千代の産まれた花宮家は知っての通り、この街が出来た時より存在する街の商売の中心にもなっている由緒ある老舗、花見屋を営業する家族だ。
次に叶奈ちゃんの産まれた伊部家だが、この家は傍目から見ても分かるお金持ちで、この街一番の大豪邸に住んでいる。ちなみに今俺達が今使わせて貰っているお部屋も叶奈ちゃんのお家の一室だ。
女子からすればグループの優位を保つ為にも、是非俺達は仲間に引き入れておきたかったに違いないだろう。
そして最後に綺月ちゃんの産まれた宫神宮家、この家は有名では無いのかと言われればその通りとも言えるし、違うとも言える。それはなぜかと言うと。
「綺月ちゃんのお家、神社とお寺の神主さんと住職さんだもんね」
そう、この宫神宮家は代々この街に一つづつしかない神社とお寺の神主と住職を務め続けているのだ。
しかしながら神社やお寺の人の名前なんて大人達は知っていても子供達がそれを知っている事は無いに等しい。
「うん。私のお家、そんなに同じ歳だと知らない子多いし、でもだからって私がいじめられたって言ったらあの子達どうなるかわかんないし……」
まぁ母様も言ってたけど、この街の中で三本の指に入るトップクラスに有名な家の子が「あの子にいじめられた」なんて言った日にはこの街に居場所は無くなるからね。
「それで言えなかったんだよね」
「うん、だからねちよちー、私は平気だからこの事は放っておいてくれない?ね?」
そう言ってお願いと言わんばかりに頭を下げる綺月ちゃんを見た俺は、綺月ちゃんの気持ちも確かに分かるとは思いつつも綺月ちゃんの顔を上げさせ、ふるふると横に振り……
「綺月ちゃんは私の大切な友達なんだよ。そんな大切な人を放ってなんか置けない。だからね────」
「私に、その子達の事を任せてくれない?」
ニコッと綺月ちゃんに笑いかけながら、俺はそう優しく綺月ちゃんへと言うのだった。
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