運動会・終幕

『続きましてはプログラムナンバー二十八番、親子障害物競走です。出場する生徒、保護者の方は入場門にお越しください』


「!」


 礼二の借り物競走が終わり幾つか種目を挟んだ後、とうとう今年の運動会で俺の最後の出場種目である親子障害物競走のアナウンスが流れる。


 ついに来たか!親子障害物競走!


「お!とうとう来たー!ちよよん午後の部の出番!」


「だね!頑張って!ちよちー!」


「うん!」


「確かお父さんと出るんだっけ?」


「ちよよんのお父さんって右目のとこに傷がある花見屋の店長さんだよね?」


「そうだよー。かっこいいよねー」


 傷は傷でも目の所ってのがいいよね!なんというかほら、厨二心をくすぐられるみたいな。


 ちなみにその傷は第二次世界大戦で負った傷と父様は言っており、俺が産まれた時に父様が三十五歳だった事や軍服姿の写真があった事から本当だと思われる。


「えーそうかなー?私は最初見た時怖かったよー?」


「みやみやは怖がりだからな!叶奈はかっこいいと思ったぞ!」


「んなっ!?」


 おー、流石叶奈ちゃん、時折自然に毒を吐きやがる。


「違うもんー、私怖がりじゃないもーん」


「そうかー?でもこの間林間学校の時に──────」


「わー!わー!」


 ん?林間学校の時なんかあったのか?


「ねぇ、それなんの話?」


「そういやちよよん爆睡してたもんなー。実は最初の日の夜になー────」


「わー!わー!わーー!と、というかちよちーは早く行かないと!」


 む、その話は気になるが確かにそろそろ行かねば。


「それじゃあ叶奈ちゃん、その話は後で聞かせて」


「りょーかい!」


「んもー!」


「あはははは、行ってきまーす」


 そう言って俺は二人に手を振り、父様の待つであろう入場門へと笑顔でかけていくのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「父様ー?大丈夫?」


「はぁ……はぁ……あぁ、大丈夫だよ千胡」


「はい、お父さんお水」


「ありがとう千保……ぷはぁっ!」


 おぉ、いい飲みっぷりだ。どれ俺からも……


「父様、飴ちゃんどーぞ」


「おぉ飴か、ありがとうな千代」


「あらあら♪浩さんモテモテですね」


「はははっ、頑張った甲斐があったってもんだよ」


 親子障害物競走の後、案の定他の親子系種目にも出ていた姉達に連れられて出場し汗だくになった父様は、膝に俺を乗せ右に千胡お姉ちゃん、左に千保お姉ちゃんと娘達に囲まれていた。

 ちなみにおじいちゃんは仲の良い他のおじいちゃん達と学校内のモミジの木の下で楽しく飲み会していたりする。


「にしても、皆大きく育ったなぁ……千胡は賢く、千保は元気に、千代は優しく、父様は鼻が高いよ」


「「「えへへへへ」」」


 そう言われると照れますなぁ。


「さて、皆は椅子とか飾りの片付けがあるんだろう?父様達はテントの方を片付けてくるからそろそろ行っておいで」


「「「はーい」」」


 さて、それじゃあ行きますか。


「えーっと確か千保が机とかで、千代はお花の片付けよね?」


「だったはず」


「そのはずー」


「それじゃあ全部終わったらまたここに集まりましょ、それでいい?」


「もっち」


「ろーん」


 そう言って父様達と別れた後俺達三姉妹もそれぞれやる事を確認し、またここに集まろうと言い合って別れ、それぞれの持ち場へと戻って行っていた、その時……


「────からって!」


「いっ────やめて!」


 ん?なんだ?揉め事か?というかこの声って────


「綺月ちゃん?」


「ち、ちよちー?」


 ふと聞こえて来た声に聞き覚えのあった俺が声の元である屋外のトイレの裏を除くと、そこには────


「綺月ちゃん……それって……」


「えと、ちよちーこれは……」


 体操服を汚され、今にも泣きそうな顔の綺月ちゃんが何人もの女子生徒に囲まれ地面に倒れていた。


「ちっ、花宮来ちゃったか……行こ皆」


「ちょっ!何やってたんだよお前ら!」


「花宮さんには関係ないよ」


 くっ……こうなったら力ずくでも足止めして……!


「……綺月ちゃん?」


「いいの、大丈夫、私は、大丈夫だから」


「でも……!クソッ、逃げ足の早い奴ら……」


 綺月ちゃんに体操服の裾を捕まれた俺が一瞬目を離した好きに逃げた女子達に悪態を付きつつ、俺はとりあえず綺月ちゃんの体操服を叩いて汚れを落とす。


「……綺月ちゃん」


「……」


「話、聞かせて貰うからね」


「……うん」


 静かだが確かな怒りを覚えつつ、こうして俺の二度目の運動会は幕を閉じ、今まで隠れていた不穏な何かの姿を俺は確かに見たのであった。

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