〇〇の秋
「……綺月ちゃん」
「な、なにー?」
「手、怪我してる」
「あっ!こ、これは今日の練習でこけちゃって……」
「そうなの?」
「大丈夫?」
俺が見てる所でコケた様子はなかったけどなぁ……まぁ運動だし、少しの怪我くらいは有り得るか。
そう言いつつ、すっかり衣替えも終わり厚手の冬服へと服が変わった俺達は体操服の入った袋を抱え、通学路を歩いていた。
ちなみに叶奈ちゃんは家の方向が違う為残念ながら学校でバイバイである。
「うんうん、そうなのー。だから大丈夫ー」
「綺月ちゃんがそう言うなら」
「でもよかったねれーくん。ちよちーと同じ紅組で、本当に」
「うん、本当によかった。千代ちゃん敵に回すとか……怖すぎる」
「おいまて礼二こら」
「ひぃ!許して千代ちゃん!」
「まぁ私も……礼二と一瞬でよかったって思うけど」
「お?千代ちゃんがれーくんに優しいぞ?これは明日大雨か?れーくんはどう思うっ!?」
「えー?なにがー?」
「れーくん……デレデレだ!」
「えー?そうー?」
「うん、気持ち悪いくらいだぞ礼二。だけどまぁ、明日雨降るのは困るなぁ」
地味に俺の一言で大ダメージを負いガックシと肩を落としている礼二を横に、俺は冗談交じりにそう言ってクスクスと笑い、明日も晴れになりそうな程晴れやかな空を見上げる。
そう、明日は色々な秋の一つ、運動の秋の定番中の定番、運動会が開催されるのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「明日は父様も見に行くからなー?」
「ほんとー!?わーい!」
今年は父様もくるぞー!冬前の仕入れで忙しいって毎度毎度言ってたから嬉しいなー!
「ウチの百メートル走も見にくるー!?」
「おう!」
「あたしのリレーも!?」
「勿論だ!」
「「「わーい!」」」
礼二や綺月ちゃんとそんな事を話しながら帰った日の夜の事、父様からの嬉しいお知らせに俺は父様に持ち上げられながらほか二人は腕にぶら下がりながら歓声を上げる。
ちなみにお兄は自分の部屋でゴロゴロしている為、俺達がはしゃいでいる居間には居ない。
「でも急にどうして?」
「流石に千胡と弘紀が小学生なのは今年までだからな、今まで忙しくて顔出せなかったが最後くらいは見ないとな」
「父様……!あたし父様大好きー!」
「おぉおっ!?ははっ、父様も大好きだぞ千胡」
そうか、千胡お姉ちゃん今年六年生で卒業だもんなぁ……最後の運動会だからこそ是が非でも見たかったんだろう。毎年「今年も行けなかった」って酒飲んで愚痴ってたもんな。
「ねぇねぇ!ウチは!?ウチの事ははどれくらい好きー?」
「勿論、千保も大好きだぞー?ほぅら肩車だ!」
「わーい!」
「……いいなぁ…………あっ」
ヤバっ!無意識に羨ましいって思って声出てしまった!
「お?千代も父様にひっつきたいか?」
こういう時に限って父様耳聰いんだからぁー!
しかしそう思う反面俺の体が父様に引っ付きたい欲求があるのは事実のようで、俺はうずうずしながら千胡お姉ちゃんを両手で抱え、千保お姉ちゃんを肩車している父を見る。
そして何処にも引っ付く余地が無いのを理解した俺が、まさに帰り道の礼二の如くガックシと肩を落としていると……
「ほぅれ!」
「わぁぁっ!?お爺ちゃん!?」
「はっはっはっ!どうだ千代ー?高いだろう?」
後ろからぐわしと脇を持たれ、そのまま勢いよくお爺ちゃんに持ち上げられる。
「おぉー、ふわふわするー。でも今は父様に引っ付きたい気分ー」
「そ、そうか……そうだったか……」
あ、しょんぼりさせてしまった。えーっと、えーっと……そうだ!
「その代わり!お爺ちゃんも明日来ていーっぱい応援してね!」
「──────!勿論だとも!よぅし!そうと決まれば今日は早く寝て明日に備えねばな!」
「……ふぅ」
「ありがとうな千代、父さんの機嫌を良くしてくれて」
「ふへへへへ、これは貸しですぜ父様ぁー」
「ふむ、ビスケットをやろう。これで手を打て」
「ありがたきしあわせー」
「何してるのかと思えば……千代、食べるのは明日にしなさいね。それに千胡と千保も、早く寝なさい」
「「「はーい」」」
「それじゃあ父様!あたし待ってるからね!」
「おう!」
こうして、俺達は賑やかに体育祭の前日の夜を過ごしたのであった。
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