さんざんざんざん
ザー……ゴロゴロゴロゴロ……
「雨だ」
「雨だね」
「雨だな」
窓一枚挟んだザンザン降りの雨に混じり雷が鳴っている音すら聞こえる天気を前に、前にもどこかでやったようなやり取りをしながら俺達は悲しみたっぷりに窓の前に立っていた。
せっかく海に来たってのに、よりにもよって本番と言ってもいい二日目にこんな雨降る?
「信じらんねぇ……」
「せっかく沢山遊べるとおもってたのになー……」
「いっぱい砂浜にお絵描きしたかったのに……」
「みやみやの絵は独創的だもんな」
「うるさい」
「「「…………はぁぁ……」」」
「み、皆ー?そう気を落とさないで?ほ、ほら!せっかくだし、旅館を探検してきたら?」
「探検?」
「暇だし、いいんじゃない?」
「何もやらないよりかはー」
「それじゃあ探検でいいー?」
「「いいー」」
こうして、俺達は叶奈ちゃんのお母さんの提案で旅館を探検して回ることにしたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「どこから行くー?」
んー、最初見取り図を見た感じだと……
「ここは入口から時計回りに見ていかない?その後二階に行く感じで」
「ちよよんが言うなら間違いないな!それで行こう!」
「だねー、いくぞいくぞー」
それでいいのか二人共……いや、それだけ信頼してくれてるって事なんだろうけど。
「ちよよん早く早くー!」
「置いてっちゃうよー」
「あ!まってー!」
とりあえず今は、一緒に旅館を楽しもうじゃないか!
俺を置いて先に行こうとしていた二人に声をかけられ、俺はそう思いながら二人の元へとかけていったのであった。
そして探査する事約一時間、最初こそ見慣れない古い物が多く驚いたり興奮したりしていたものの、小さい子にはやはり趣というのはつまらないもので……
「あきたぁー」
「ひまぁー」
まぁ、こうなるよな。
休憩室でだるーんとしながら、叶奈ちゃんのお母さんから貰ったお金で買ったお菓子を皆でちびちびと摘んでいた。
柱時計とか壁掛けのネジ巻時計とか、ペナントやらなんかお高そうな日本人形とか、俺は飽きないけど小さい子はあんまり面白くないよなぁ。
「にしてもなんか叶奈ちゃんのお母さん顔赤くて息荒かったねー。何かしてたのかなー?」
「浴衣も崩れてたしな、お父さんと何か遊んでたのかな?叶奈達も混ぜて欲しいぞー」
叶奈ちゃん、それだけはあかんぞ、絶対にあかん。何があかんのかはあえて考えないし言わないけど、絶対にあかん。
「というか雨、もっと強くなってきてるね」
「ねー。明日ちゃんと帰れるのかなぁ」
「その時はもう一泊するって言ってたぞ!次こそは海だ!」
「だね!帰れなかったら明日こそ海を満喫──────」
ドガシャーン!
「「「ぴっ!」」」
「す、凄い雷だったねぇ……」
「う、うん……皆大丈夫ー?」
一瞬の光と同時に、まるで今の今まで見ていた窓の外に落ちたのではないかという程の轟音と共に真っ暗になった旅館の中で、俺達はそう互いの無事を確認し合う。
「わ、わわわわわわたしはははだだだ、大丈夫だぁ!」
「今の声……ちよよん?みやみや?」
「わわわ、わた、わたわたひじゃないよ!」
「わ、わらひでもないもん!」
「んん?」
「お客様申し訳ございません!雷で停電してしまったらしく、ただいまロウソクに火をつけますので!」
「「あ!今つけちゃ!」」
そんな見事にハモった制止の声も虚しく、シュボッというマッチをする音と共にロウソクに灯った火が休憩室を明るく照らしていき──────
「あかるーい。二人共!明るいなー……ってあれ?二人共?そんなとこで何してるんだ?」
「はぁうぅ……」
「見ないでー……」
机の下に入り込み、恐怖のあまり丸まっていた俺達まで照らしたのであった。こうして、俺達の海二日目は割と散々な目に合いながら幕を閉じた。
そして三日目は無事に街へと帰り、俺達がその後も有意義に夏休みを過ごしている内に月日は流れ、季節はほんのり寒い秋へと変わっていた。
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