楽しい楽しい夏祭り?
弾速、礼二の弾道から計算……角度系統よし。
「す、凄い集中してる……」
風速微風、風向きは後方から……風によるブレよし。
「目が本気だぞ……」
弾の威力、景品の揺れ……標的を倒せるポイントよし。
「こんな千代ちゃん初めて見た……」
倒す為の条件、オールグリーン……後は心を落ち着かせて……
「……一発だ」
ガヤガヤと賑やかな祭り会場の一角、周りの賑やかさは何処へやら、シンと静まり返った射的屋で長々と銃を構えていた俺はそう一言言い引き金を引く。
すると勢いよく銃口から飛び出たコルク弾はまるで吸い込まれるように狙った景品の右上へと命中し、見事その商品をパタンと後ろへ倒し────
「「「「「おぉぉー!」」」」」
「うわぁっ!?」
びっくりした!というかまた人が!
「凄いな嬢ちゃん!」「かっこよかったよ!」「すげぇなあれ!」「一発だ……って決まってたよ!」「花宮さんとこのお嬢ちゃんだろ?凄いなぁ」「お姉ちゃん今度コツ教えてよ!」
「大丈夫かちよよん!?」
「千代ちゃーん!」
「うわわわわわわわわわっ!」
人がぁ!人の波がぁぁぁ!
「コラコラ、いい歳した大人共が子供を取り囲むな!大丈夫だったかい?」
「あ、ありがとうございます……」
人の波に飲み込まれた俺は、大き目の声でそう言い俺を取り囲んでいた人を追い払った屋台のおじさんに助けられたのだった。
「でもあんなに上手ならもっと大きいの狙えば良かったのにー」
「ふっふっふっ、甘いな礼二。射的には取りやすい物と取れにくい物があるのだよ」
「なるほどー、だかられーくんが射的してる間ちよちーおじさんとお話して聞き出してたんだ」
「うむ。何事も下調べが大事なのだよ」
からんころんと下駄を鳴らし、あれから輪投げやくじ、型抜きやパチンコの手作り版みたいな奴なんかも堪能した俺達は祭り会場を食べ物片手に歩き回っていた。
「次は何するー?」
「そうだねぇーって言いたいけど、私もうお財布すっからかんだー」
「俺もー。千代ちゃんは?」
「私ももうあんまり残ってないなぁ」
幾らだいたいどの屋台も一回一個が十円、高くても五十円くらいだとしても流石に軍資金五百円だと少ないなぁ。
「むむむ、皆残ってないのか……」
「もうちょっと遊びたかったねー」
「ねー」
まぁ祭りは秋にも冬にも春にもあるんだ、いや春のお祭りは俺達遊べないけど、もうちょっと遊びたかったけど今回はここら辺で────
「ねぇねぇ皆」
「ん?なに礼二」
もう解散しようかって流れだったんだけど。
「あれなら皆のお金合わせれば皆で出来るんじゃない?」
「あれ?」
そう礼二に言われ俺が首を傾げながら礼二の指さす方を向くとそこには……
「おぉ!面白そう!」
あ、あの雰囲気……
「それに安い!一人五円だって!」
中から聞こえてくる悲鳴……
「でしょでしょ!皆であれ行って今日はお終いにしよ!」
「「さんせーい!」」
「千代ちゃんもそれでいい?」
「え、あ、えと……」
「どうしたの?」
「い、いや……だって、だってあれって……」
「「「?」」」
「お化け屋敷じゃんかぁ!」
そう、そこにはとても立派なお化け屋敷が立っていたのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「……」
「……」
「……」
「……えーっと、千代ちゃん?」
「ぴゃいっ!?ななな、なんでしょか!」
「いや、その、大丈夫かなって」
「あ、あぁ……うん、大丈夫、大丈夫だから」
お化け屋敷の入口、入れるのは二人までという事で先に叶奈ちゃんと綺月ちゃんが入って行って数分、礼二に心配された俺はそう言いつつも、きゅっと礼二の袖を握っていた。
「それにしても意外だったなぁ。まさかあの天下無敵の千代ちゃんが怖いの苦手だなんて」
「うぅぅ……そんなことないやい……」
ただ「わぁっ!」とかそんなびっくり系がダメなだけで、雰囲気とかそういうのの怖さは別に大丈夫だもん。
というか天下無敵って何さ、俺そんな無敵してないし。
「でも大丈夫!怖かったらいつでも俺を頼って!千代ちゃん守ってみせるから!」
「えー礼二がー?不安だなぁー」
まだ成長期になってないからわかんないけど、礼二って俺より身長低いからなぁ。まぁその背伸びが可愛いんだけど。
「お、俺だって男だ!女の子の一人くらい守らなくてどうする!」
「おぉ、カッコイイこと言うじゃん礼二。でも浮気とかはしちゃダメだからなー?」
浮気は人生を破壊するって言うしね。
「わ、わかってるよ!」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、礼二をからかっていた俺に、礼二がぷくっと頬を膨らましそう言い返して来る頃には、俺はいつの間にか何時もの調子へと戻っており……
「あははははっ!あー面白い面白い」
「もー!千代ちゃんの意地悪!」
「ごめんごめん!でも頼りにしてるよ、礼二」
その頃にはもう俺の手は礼二の袖を離していたのだった。
そして案の定びっくり系だらけだった中身で、俺はお化け屋敷から出るまで目をきゅっと閉じ礼二の腕を掴み、結局家に帰るまで離れられなかったのはまた別のお話。
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