懐かしのジャンキー

 お日様の暖かいこんな日はゆっくりと日向ぼっこでもしてたいような日の朝、家で過ごす時の和服に身を包んでいた俺達三姉妹は外行きの服に身を包んだ父様達を前にしていた。


「それじゃあ三人共、母様達は出かけて来ますのでいい子にお留守番してるんですよ」


「「「はーい」」」


「ごめんな三人共。今日のは弘紀しかお呼ばれしてなくてね、今度街に出た時可愛いお洋服を買ってあげるから、ね?」


「アタシ達ちゃんと留守番してるね」


「可愛いお洋服買ってね!」


「お姉ちゃん達と待ってるから」


 給料一万三千円とかいう歌がある程お金の価値が令和より遥かに高いこの時代、そんな気軽に買う物じゃない洋服を買うと約束する父様や母様を俺達はそう言って見送ったのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「だからってあんなに言う必要あると思う?」


「ねー、いくら自分だけが行けるからって……ねぇ、よーちゃん」


「うん、凄くウザかった」


 自分一人だけ外行きでいい料理食べられるからって母様父様が目を離した所で「お前らは芋でも食ってろ」とか、もうすっかり悪ガキだよあの兄は。


「「うざ?」」


 お昼過ぎ、この時代では聞きなれない、というかそもそも聞かない言葉を聞き、俺を挟んでいる首を傾げている姉達に俺はなんでもないと首を振る。

 あの後、母様達が出かけて暫くしてから母様が作り置きしてくれてたお昼ご飯を食べ終えた俺達は、日頃からのお手伝い同様お皿を洗っていた。


「でもいくらあたし達が女だからって、三人で分けるとあのおかずの量じゃ足りないよねー」


「かと言ってガッツリ何か食べれるって訳じゃないしねー」


「何かお菓子でもあればいいのにねー」


「だからって二人共私抱っこしないでー」


 右と左からがっちりむぎゅうとされて身動きが取れませんっ!


「「だって暖かいんだもーん」」


 子供かっ!いや子供だけど!

 でも俺も少し物足りない感じだったし、何か軽くつまめるような物でも……本当に兄が言ってたみたいに芋でも食べて……芋……


「あっ、そうだ」


 ふと頭の中で兄に言われたセリフがフラッシュバックした俺は、あれなら作れるんじゃないかと思い付き、ぴょこんと姉達の膝から立ち上がり台所へと向かう。

 台所についた俺はごそごそと流しの下をあさり、お米の名前が入ってる頑丈な袋の中から、俺の手のひら二つ半はありそうな大きめのじゃがいもを二つ取り出す。


「じゃがいも?」


「うん。千胡お姉ちゃん、ボウルを探してお水入れてくれない?」


「いいけど、どれくらい?」


「ボウルいっぱいで」


「ん、分かった。えーと、ボウルボウル」


 うし、それじゃあ千胡お姉ちゃんがお水用意してくれてる間に、私は足場になりそうな物を────


「よーちゃーん、いい感じの箱持ってきたよー」


「わわっ!千保お姉ちゃんありがとー!」


 この姉、俺が次何をしようとしてたか読んでたな!でもすごく助かる!


「次は何してればいいー?」


「んー、そうだなー。片栗粉探してくれない?」


「片栗粉ね!分かった!」


 ……大丈夫かなぁ。まぁ、とりあえず俺はじゃがいもを切るとしますか。


 ボウルと片栗粉を探す姉達を他所目に、俺は両の横髪を掴むと後ろへと持っていき交わらせ、数回捻ってから交わらせた場所を潜らせ髪型を決めると、じゃがいもを切り始める。

 横に半分に切って底辺を平らにしたじゃがいもを更に横にもう一度切り、丁度良さそうな長さになった所でそのじゃがいもを更に五ミリ四方に細長くなるよう縦と横に切る。


「千代ちゃん切るの早いね……手際良くて凄い」


「よーちゃんまだ包丁触らせて貰った事ないのにすごーい。どうやって覚えたのー?」


 そりゃあ前世から料理とかが趣味でよく自炊してたからーなんて言えないし。


「見て覚えたー。よし、もういいかな?千胡お姉ちゃんボウルは?」


「ここにあるよー」


「おー、さすが千胡お姉ちゃん。それじゃあこのじゃがいもをお水につけてっと」


「そこに片栗粉入れるんだね!」


 !?


「違う違う違うストップストップ!」


 それやったらあかん!失敗するし母様に殺される!


「違うのかー」


「うん、違う、後でお願いするから、千胡お姉ちゃん大人しくしてて」


「分かったぁ」


 あぁ、我が姉とは言え幼女をしょんぼりさせてしまった……はっ!今回はむぎゅうっとしてやれるじゃないか!そうと決まれば早速────


「むぎゅうー」


「ほわっ!?」


 一瞬で抱きつかれただとぅ!?


「それじゃあよーちゃん、このじゃがいもどうするの?」


「あ、じゃがいもはそのまま十分くらいお水につけるの」


「ふむふむ。それじゃあ、ウチもむぎゅー!」


「むぅおおぉぉぉ!」


 こうしてぎゅうっと千胡お姉ちゃんに抱きしめられていた俺は、タイマーのつまみを回して準備OKな千保お姉ちゃんにも抱きつかれ、十分間むぎゅうっとなっていたのだった。


「こほん、それじゃあまず適当な袋を用意……と言ってもポリ袋やキッチンペーパーなんてないし、お水を捨てたらザルに移して、水気をよく切ります」


「はーい」


「そしたら次にザルからまたボウルにじゃがいもを移して、そこに片栗粉を適当にいれたら、もう一つのボウルを被せ、千保お姉ちゃんにこうシャカシャカ振ってもらいます」


「任せてー!てやぁぁぁぁー!」


 おぉ、すごい勢い。じゃがいもくずれてないといいけど。


「こんな感じ!?」


「どれどれー?うん、いい感じ!そしたらあとはー────」


 そこまで言うと俺はフライパンをコンロに乗せ、そこに油を引くと中火で暫く熱し、そこに先程のじゃがいもを入れていい感じに表面がカリッとなるまで焼き上げる。

 そしたら最後に塩をまぶし、熱すぎ無いように熱をとるイメージで全体に馴染ませ、お皿に移せば────


「揚げないフライドポテトのかーんせー!」


「「わー!所で、フライドポテトってなーに?」」


「ずこーっ!」


 ふ、ふらいどぽてぃとぅを知らないだと!?い、いや、そういやまだモクドナルドなんて無いもんな、うん。知らなくて当然か。


「とりあえず食べてみて?すっごく美味しいから!」


「それじゃあ」


「よーちゃんがそういうんだし」


「「「いただきまーす!」」」


 そう言って俺達はお皿にあるフライドポテトを一本ひょいっと取ると、それを口に運び小さな口でパクッと食べる。

 水分を取り切れてなかったりしたからか、とても上出来とは言えないが、それでも久しぶりに食べたジャンキーな味に横で目を輝かせて食べている二人をみながら見舌鼓を打つ。


「美味しい!凄く美味しいよこれ!」


「幾らでも食べれる気がする!」


 なんせ後数年は日本に存在しないファストフードでジャンキーな料理だからね、味わって食べてくれたまえ諸君。


 二人にそう言われ俺は満足気に頷きながら、たまにはこういった料理をしてあげるのもいいかもしれないと思うのだった。

 この後、母様達が帰ってきて勝手に料理した事がバレた俺達はこってり叱られたが、その後残ってたフライドポテトを食べた母様にこっそり作り方を聞かれたのはまた別のお話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る