誰にも渡したくないもの
「ねぇねぇ二人共ー。好きな人って、居るー?」
好きな人?そうだなぁ……
「私は叶奈ちゃんも綺月ちゃんも好きだよー」
「叶奈も二人のこと大好きだぞー!むぎゅうー」
あぁ、叶奈ちゃん今日もお日様の匂い……癒され。
「えへへ♪って二人共ー、嬉しいけど違うー!そっちじゃなくて好きな男の子が居るかって話ー!」
お昼休み、礼二達男の子が外でボール遊びに夢中になっている間、俺達女の子は教室の端っこでそんな話をしていた。
「おー!そっちだったか!みやみやがそんな話するの珍しいな!」
綺月ちゃんがするのが珍しいというより、このグループ自体そんな話滅多にしないからなぁ。でもやっぱり女の子、そういう話好きなんだな。
「だってー、私達もう今年で八歳でしょー?好きな人も一人くらい居そうじゃーん?」
八歳でしょってなんだよ綺月ちゃん!まだ一桁じゃん!その三倍近く生きても恋人一度も出来なかったりするんだから早すぎるよ!
「あー、確かになー。叶奈達もそろそろ十代になるもんなー」
叶奈ちゃんも納得しちゃった!というかなんだそのもうすぐ十代って!もうすぐ三十路みたいに言うんじゃありません!いや精神的には俺はもう三十路だけど!
俺には分からないその幼女達の感覚に内心全力でツッコミを入れつつ、俺が何も言わず話を聞いているとだんだんその話にも熱が入ってきたらしく──────
「でもやっぱりお嫁さんに行くなら叶奈は叶奈とたくさん遊んでくれる人の所がいいな!」
「えー、かなちーのはそれ今遊んで欲しいだけじゃないー」
「まぁな!」
いつの間にか結婚するならどんな人がいいという話へとなっていた。
「ちよよんはどんな人がいいんだ?」
「はぇっ!?あ、お、わ、私ぃ!?」
「うん。ちよちーはどんな人がいいー?」
やっべぇ、完全に油断してたー!えーっとえーっと……
「真面目で、浮気なんてしない私の事を一筋に思ってくれる人……かなぁ」
「へー。だってさ、れーくん」
「お、おう」
「ほわぁっ!?れ、れれれれーじ!?いつの間に!」
いきなり後ろから聞こえてきた礼二の声に俺はビクゥッと飛び跳ね、そのままコケながら勢いよく礼二から距離を取るとただでさえ高い幼女の声を裏返したままそう尋ねる。
「えーっと、千代ちゃんがどんな人がいいかって所から……」
「うなぁー!」
そ、それって……それって全部聞かれてたって事じゃんかぁー!
「ううぅーー!そ、それなら!それなら逆に綺月ちゃんはどんな人がいいの!?」
「私ー?そうだねー……私はれーくんみたいな人のお嫁さんがいいなー」
「「えっ」」
「おぉ!みやみやだいたーん!れーたろーの何処がいいんだー?」
「だってほら、れーくんって優しいでしょー?それに足も早くて男子の中じゃかっこいいし、私そういう人すきー」
「そ、そうか?へへへへへ」
むぅ……
綺月ちゃんにそう言われ、やはり女の子に好きと言われ嬉しかったのかニヤニヤしてた礼二を見た俺は、何だか胸の内にモヤッとした物を感じ、礼二の腕にぎゅっと抱きつく。
「ち、ちちち千代ちゃん!?」
俺は男、いや、今は女だが中身は元男だからそういうのは無いけど……
「……やだ」
「「「?」」」
「綺月ちゃんの所に礼二が行くのは、なんかやだ」
「……あらあら♪」
「おー!」
「な、なんだよぅ」
「いやーちよちー可愛いなーって。ねーかなちー」
「なー!今のちよよんすごく可愛いぞ!」
「んなっ!?このっ……!二人共まてー!」
「「きゃー!」」
「…………千代ちゃん、可愛くて、いい匂いだった」
こうして賑やかに俺は友達と昼休みの時間を過ごしたのだった。
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