ゆきやこんこん
稲刈りが終わって家に帰ってから数日が経ち、いよいよ11月も中盤になろうかと言う頃……
「わぁー!雪だー!」
この時期に雪だなんて珍しいなぁー。いや、この時代なら普通なのか?まぁいい、雪が降ったと言うことは……
「遊ぶしかないで……あ……あれ……?」
なんか、足が、ふらふらぁって……
ーーーーーーーーーー
「けっほけっほ!」
くそう……油断してた…………
「三十八度、風邪ね。稲刈りではしゃぎ過ぎたのかしら……とりあえず治るまで大人しくしてなさいね?」
「はーい」
案の定俺は風邪を引いてしまったのだった。
「それじゃあ、私は町内会の集まりで少し出ないと行けないから。二人共、千代の事お願いね?」
「「はーい」」
……不安だ。
「それじゃあ千保、千代ちゃんの看病頑張ろ!」
「うん!言われたとおりタオル持ってきたよ?」
「ありがと千保!それじゃあこのタオルを水につけて、ぎゅーって絞って……!よし、千代にかけてあげるの!」
「なるほど!それじゃあよーちゃんのおでこに乗っけてあげて〜」
ベチャッ
「それじゃあしばらくしたらまたやってあげようね!」
「うん!」
……ものっすごい不安だ。
トタトタトタと姉達が去っていくのを確認しながらそんな事を考えつつ起き上がった俺は、びちゃびちゃのタオルを退かしてため息をつく。
母様がお姉ちゃん達に俺の看病頼んだ時点でろくな事になる気はしなかったけど、まぁ予想通りだったな。
「まさかここまでびしょびしょのタオルをかけてくるとは思わなかったけど」
風邪で弱くなってるただでさえ無い力を振り絞り、なんとか頭に乗せる程度まで水を絞りながら「まぁ姉とはいえ齢一桁の女の子だし仕方ないか」と気持ちを切り替える。
にしても、ほんとこの体って弱いよなぁ……直ぐに風邪ひくわ走れば直ぐにバテるわ、力もないから重いものは運べないし、ほんと女の子は大変だ。
「千代やーい?」
む、この声は……
「おじいちゃん?」
「おぉ、起きとったか千代。大丈夫なのか?起きてて」
「えっとね、タオルびしょびしょだったから絞ってたの」
「なるほど、ちょっと貸してご覧なさい」
代わりに絞ってくれるのかな?おじいちゃん優しいなぁ……でも────
「ふんっ!これでどうだ千代?」
「え、えっと……ちょっと絞りすぎかなぁって……」
母様がおじいちゃんにも注意してたわけだよ!絞りすぎてカラカラになってんじゃん!どんな馬鹿力だよ!
内心そんなツッコミをしつつ、何度か失敗しながらもおじいちゃんになんとかちょうどいい具合にタオルを絞って貰った俺は、ようやくまともに休む事が出来ていた。
にしても……
「ひまだなぁ……」
この世界で過ごして三年、確かに元の時代じゃ見れない古いものとか珍しいものが沢山あって面白くはあるんだけど、まぁやっぱり。
「どーしても暇なんだよねぇ」
この時代ってソシャゲとか携帯ゲームみたいなお手軽にできるゲーム、というか暇つぶしがないんですよ。それにウチにあるのって言ったらカルタとかコマとか人形とかだし。
「少なくとも病人が遊ぶような物じゃないんだよなぁ」
古い物は昭和のレトロゲーから新しい物はVR物まで、前世ではゲームのみならずアニメ大好きオタク人間だった俺からすれば、割と赤ん坊時代は死ぬ程暇で辛い時代でした。
というかほんと、痒いところに手が……届かない…………そんな時代……だ……
「すぅ……すぅ…………」
そんな悪態をつきながら、幼い体の少ない体力が尽きた俺は自分でも気が付かない程一瞬で眠りへと落ちたのだった。
ーーーーーーーーーー
「んん……」
「あら千代、起きたのね」
「かー……さま?」
あれ……?俺……寝てた?
「ぐっすり寝てたみたいね。こんなにぐっしょり汗かいちゃって……起き上がれる?」
「うん……」
だいぶ体も楽になってるな……それに、母様が帰ってきてるってことはだいたい三時間くらい寝てたのか。よく寝てたなぁ……
「体、拭いてあげるからね」
あぁ、確かにこの時代は色々と手が届かない。だけど────
「かーさま」
「はい、なんですか」
「千代、皆が大好きです」
「母様も千代の事大好きですよ」
こんなにも心が暖かくなるんだ。
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