秋の帰省
「千代ー?お着替え出来たー?」
「出来ました母様!」
「ちょっと来てご覧なさい。ボタンは大丈夫ですね。チャックもちゃんと閉まってるし、肩にも引っ掛けてある。うん、完璧よ。一人でお着替えできて偉いわー」
「えへへへへ」
こんな事で褒められるのもあれだけど……まぁ三歳児だからね、そんなもんさ。
「それじゃあ千代、暫く大人しくしてるんですよ?」
「はーい」
十月の末のある日、その日の朝慌ただしく準備をする母様に俺は洋服をチェックされた後、そう言われ母様の後ろでシャチのぬいぐるみを抱っこしていた。
「よし、お化粧終わり。どうかしら千代?母様綺麗?」
「うん!母様綺麗!」
実際、化粧無しでも美人だから化粧したら間違いなく美人なんだよなぁ。
「一恵さん、そろそろ出ようか?」
「はい、浩さん。でもその前にお義父さんに挨拶を────────」
「お、もう出るのか」
「あらお義父さん」
「じいちゃん!」
「あ、こらっ千代!」
父様の後ろからひょこっと顔を出したお爺ちゃんを見て、俺はぴょこんと飛びつくと、お爺ちゃんは嬉しそうに抱えあげてくれる。
「まぁまぁ一恵さんや、お家はおじいちゃんが守ってあげるからね。千代はお母さんのお家でお泊まり楽しんでおいで」
「うん!じいちゃんありがとう!行ってくるね!」
「おう、楽しんでおいで」
「全く、もうちょっと千代には女の子らしく、大人しく落ち着いて欲しいものですね」
「まぁまぁ、子供は元気が一番さ。さて、そろそろ行こうか」
そんな俺とお爺ちゃんを、父様は微笑ましげに見るのだった。
ーーーーーーーーーー
「「「せーんろーはつーづくーよーどーこまーでーもー」」」
「こらっ、もうちょっと静かになさい」
「「「えー」」」
「えーじゃありません」
「でもー」
「兄様走り回ってるよ?」
「電車の中なのにね」
ガタンゴトンと俺達しか乗ってない電車に揺られながら、両親に挟まれ仲良く歌っていた俺ら三姉妹は、見事にそれぞれの言いたい事も噛み合っていたのだった。
「まぁ今は俺達以外は誰も乗ってないし、誰か乗ってくるまでは自由にしてなさい。と言っても……」
『次は〜───────』
「もう着くみたいだがな」
「はぁ……まぁ、もう着くならいいでしょう」
父様悪い顔してるなぁ……母様にしてやったりってか?
そう思って俺が隣に座ってるじっと父様を見ていると、父様は俺の視線に気が付いたのか、こっちにチラッと目線を落とすとニヤリと笑みを浮かべパチンとウインクを送ってくる。
あっこれ父様確信犯だ。しかもコソッと飴まで持たせて来た!とりあえず頷いとこ。
そんなこんなありながら、目的地である次の駅に向かう電車の窓から、俺は口に放り込んだ飴を舐めながら景色を見る。
そこにはあの時とは変わり、黄金色に染った田んぼ、木々が紅葉し、綺麗に彩られた山、そしてそれら全てを目に痛いほど朝焼けが綺麗に照らしていた。
そんな変わっても美しい景色を見ながら、俺達花宮家一家は今日、母様の実家の稲刈りを手伝うべく、夏に田植えの手伝いをした時ぶりに母様の実家に帰ってきていた。
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