昭和の夏祭り

 ズラリと屋台の並んだ道!食べ物の屋台からのいい匂い!お客さんを呼び込む大きな声!そしてぴーひゃらぴーひゃらと響く軽快な祭囃子!


「これこれ〜!夏祭りと言えばこれだよ〜!」


 アニメとか漫画でしか見たことのなかった光景が今目の前に!くぅ〜〜!もはや嬉しさを通り越して感動すら覚えるっっ!


「ふふっ、はしゃいじゃってまぁ。でもお祭りの会場に行く前に礼二君と合流しますからね」


「はーい!」


 元気よく返事をしつつ、からんころんと下駄を鳴らしながら母様に手を引かれて俺が歩いていると、約束していた場所で礼二とそのお母さんと合流する。


「礼二も浴衣なんだね!なかなか似合っててかっこいいよ!」


「あ、ありがと……千代ちゃんも浴衣可愛いよ!」


「……!ありがとね礼二!」


 中身は男だから可愛いって言われるのはなんだかあれだが、それでも褒められるのはやっぱりいいものだな。


「やっぱり仲良しねぇ」


「そうですねぇ。ほら二人共おててつないで、迷子にならないように気をつけるのよ?」


「「はーい!」」


 礼二と俺は元気よく一緒に母親達に返事をすると、片手は母様と、もう片手は礼二と繋いでお祭りの会場へと向かった。


 ーーーーーーーーーー


「はいどうぞお嬢ちゃん、顔を突っ込んで食べるんじゃねぇぞ。べたべたになっちまうからな」


「うん、ありがとうおじちゃん!」


 よーし買えた買えた!夏祭りに行くって聞いた時から無性にわたあめ食べたかったんだよ!


「買えたよ母様!」


「それはよかったわ。ほらわたあめはちぎって食べなさい、顔中べたべたになりますよ」


 うっ、屋台のおじちゃんと同じ事言われた……


「はーい、礼二も一口たべる?」


「いいの?」


「勿論!」


 それに俺1人じゃこの顔よりでかいわたあめは食いきれんからな。


「ありがとう千代ちゃん!」


 わたあめを分けてもらい無邪気に喜ぶ礼二を前に、俺はふっと笑みを浮かべるとまだまだ山のようにあるわたあめをポイッと口に放り込む。


 あまっ!だがそれがいい!


「ふふっ、2人とも夢中で食べちゃって」


「飲み物でも買ってきましょうか」


「お願いします。その間子供達は私が見てますので」


 結構喉渇くし、礼二のお母さんの心遣いが有難い……そういや、今日のお祭りはお店をやってる人がメインで屋台出してるんだっけ。

 となると店が留守のところがほとんどだろうし、何かと最近物騒だしちゃんと鍵かけとかないとだなぁ。

 母様父様が忘れるとは思えないけど俺も俺で気をつけとかねぇと…………ん?


 もしゃもしゃとわたあめを食べながらそんな事を考えていた俺は、ふと物陰にソワソワと周りを見る男がコソコソと駆け込んで行くのを目の端に捉える。


「……………………」


「千代ちゃん?」


「ねぇ礼二、私ちょっとトイレ行ってくるね」


「トイレ?なら千代ちゃんのお母さんに……」


「すぐ戻って来るから、母様に聞かれたらすぐ戻るって言ってたって伝えて。わたあめもあげるから、お願いね?」


「う、うん。わかった」


 困惑気味の礼二の頭をぽんぽんと撫でてやりながらそう言ってわたあめを押し付けると、俺は浴衣の帯を少し緩め、怪しい男を追いかけ始める。


 もし、もしもだ、あの怪しい男が泥棒だとしたらどの店を狙う?

 祭りの騒ぎに乗じて普通じゃ盗めない大きなもの?いや、この辺りの店にそんなものはないはず。

 となると祭りの商品と言っても通じそうな品……駄菓子や玩具?…………大人の男が欲しがるとは思えないな。

 となると残るのは…………雑貨か小さな金物!そしてこの辺りでその店があるのは礼二の金物店!

 そして今日はお祭りだからおじさんおばさんも居酒屋をやってない、となるとやっぱり!


「……急がなきゃ!」


 怪しい男が行くであろう場所がわかった俺は、そう呟いて更に走る速度を上げるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る