風邪ひきさん

「こほっ!けほっ!うぅぅ…………」


 きつい……つらい…………身体が熱い……だるい…………


「千代、ご飯持ってきましたよー……ってあらら。ダメじゃない、お布団跳ね除けちゃ」


「でもぉー……」


 夏場に毛布って……地獄だぜ母様。


「でももなにもありません。ほら、起き上がれますか?」


「うん……」


 そう返事をしながら母様に背中を支えられなんとか起き上がった俺は、ほんのりと顔が自身の熱で赤くなっていた。


「ほらリンゴですよ。お口開けて」


「あー……んむ」


 あぁ……井戸の水で冷やしてたんだろうか、よく冷えてるリンゴが火照った体に染み渡る…………


 そう、今俺は赤ん坊を卒業して初めて風邪を引いていたのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


「はい、お口開けてねー」


「あー」


 時は遡ること一日ほど前、母様の実家の田植えも終わり家へと帰ってきた日の翌日、俺はどうにも様子がおかしかったらしく医者にみてもらっていた。


「喉が少し腫れてる……んで体温は────38度、風邪ですね」


 風邪かぁ……我ながらはしゃぎすぎたか…………というか水銀体温計とか初めて見た。そんなの家にあったのね。


「やっぱり……どうにも朝から顔が赤くて、動きも少しふらふらしてると思ったんです」


「子供は唐突に風邪をひきますからね、何か心当たり等は?」


「先日私の実家に家族で帰りまして、その時にこの子とってもはしゃいでましたからそれが……」


「全身びしょ濡れになってそのままとかは?」


「いえ、それは流石にありませんでした」


「ふむ……となると…………まだ分かりませんが、この子は少し体が弱いのかも知れませんね。とりあえず今回は薬を処方しておきますので」


「はい、ありがとうございました」


 ーーーーーーーーーーーー


 こうして俺はめでたく体が弱いのかもしれないとお医者さんに言われてしまったのだった。


「37度、熱もだいぶ下がったわね。あらもうリンゴはいいの?」


「うん、おなかいっぱい」


 いくら風邪をひいて食欲とか落ちてるとはいえ、まさかリンゴ一切れ半で腹いっぱいになるとは思ってなかったけどな。


「それじゃあお薬飲みましょうか。はいお口開けてー」


「あー」


 粉薬ってなんでこんなに飲みにくい上に苦いんだろうな、子供が薬を飲むのを全力で嫌がるわけだよ。


「んむぅ……」


「お薬嫌がらないなんて、本当に千代は偉いわ。さっ、お水ですよ。これでお薬ごっくんしてね」


「ん」


 薬を流し込む為とはいえ流石に喉がかわいていたのか、俺はそのまま両手で持ったコップいっぱいに入っていた水を全て飲み干してしまう。


「あらあら、相当喉が乾いてたのね。お水もっといる?」


「んーん、いらない」


 さっきので満足だし、これ以上飲むと腹を冷やして下しそうだ。


「それならよかったわ。さっ、母様がついててあげるから、ゆっくりお眠りなさい」


「うん」


 俺はそう短く返事をすると、母様に頭を撫でられている心地良さで直ぐに目を閉じ、すーすーと寝息をたてて寝てしまったのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


「ん……」


 結構寝たなぁ……体も心做しか少し軽くなった気がする。

 そういや前に風邪をひいたのは確か大学1年の頃だったかなぁ……一人暮らしを始めたばっかりの頃にひいてすっげぇ心細かったっけ…………


「かーさまー」


「…………」


「かーさま?」


 寝てる?


 何となく寂しくなって母様の名前を呼んだ俺は、枕元に目を閉じて船を漕いでいる母様を発見する。

 そしてそれを見た俺は────


 寝てる……よな…………寝てるな。…………よし。


 ーーーーーーーーーーーー


「ん……あらいけない寝ちゃってた。千代は大丈夫かしら────ってあらあら♪」


「すー……すー…………」


「寂しかったのかしら?ふふっ♪千代は大人っぽい子だけど、やっぱりまだまだ子供ね」


「…んんぅ………かーさまぁ………………」


「あら♪これは後でプリンでも買ってきてあげようかしらね」


 母様の手をきゅっと抱きしめ、すやすやと寝息をたてて幸せそうに寝ていたのだった。

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