電車に乗って行く先は
「─代───、お──て千──」
んん……あ、あれ?電車?俺いつの間に、というか家で寝てたはずじゃ……
「俺は何を……?」
「俺?」
あ、やべ。えと、えーっと……
「か、かーさま、ここ何処なの?」
「ここ?ここは電車よ。まだ千代が寝てる時に家出たから、気持ち悪かったりしない?」
思わず寝ぼけて素が出てしまった俺は、母様に頭を撫でてもらいながら説明してもらい、返事をしながらなんとか話を反らせたと内心息を吐く。
「お、千代起きたか」
「とーさまおはよー」
「はいおはよう。千代、こっちにおいで」
「ん」
なんだろう、俺としてはもう一眠りくらいしたいんだが……
「んっ……しょっと…………わぁ……!」
父様に言われ、走る列車の窓を覗いた俺は──────
綺麗な自然いっぱいの景色が朝焼けの光でキラキラしてて……すごい……!
「どうだ?綺麗だろう?」
「うん!わぁ……!」
その窓の外に広がる薄らと霧に包まれた田んぼや川、木々が青々と生い茂った山、そしてそれら全てを優しく照らす朝焼けに、父様の膝の上で声を漏らしていた。
そんな美しい景色を見ながら、俺達花宮家一家は今日、母様の実家の田植えを手伝うべく、母様の実家に里帰りしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
で……で…………
「でっかあぁぁーーい!」
荘厳な作りの門を潜り立派な庭を通り抜けた先、母様の実家である「狭山家」を目の当たりにした俺は、その驚く程大きな家に驚きを隠せなかった。
「あらおかえりなさい一恵、今年は帰れるって手紙届いてたから楽しみにしてましたよ」
おー、着物に割烹着、正に昭和って感じのおばあさんだ。
「久しく帰ることが出来ず申し訳ありません母様。ですが町の決まりでしたので……」
母様?あー、だから母様を名前呼びだったのか。
ということは……この人が俺のおばあちゃんって事になるんだよな?…………若いなぁ……まだ六十行ってないんじゃないか?
「前に帰ったのが千保ちゃんが産まれる前でしたね。それでその子が?」
「はい、この子が私達の末の子です。ほら、おばあちゃんに自己紹介してみなさい」
「え?あっはい!」
おっといけない自己紹介自己紹介。
「千代っていいます!今年三歳になりました!おばあちゃん、よろしくお願いしまーす!」
「あらあらあら〜、上手に自己紹介できましたね〜♪おばあちゃんもよろしくね千代ちゃん。ささっ、ここで立ち話もなんですし、浩さんもお上がりください」
「はい、お義母さんありがとうございます」
「父様母様!はやくはやくー!」
「もう兄ちゃん達きてるよー!」
「朝ごはんたべたーい!」
「こら千保千胡!女の子なんだからお行儀よくなさい!」
元気だなぁ……
そう玄関先で話していた俺達を先に家に上がっていた姉達が急かして来て、それを母様が追いかける。
そんな心温まる光景を前にそう思いながら俺が見ていると、いきなりきゅっと俺の小さな手をおばあちゃんが握ってくれる。
「千代ちゃんもお腹空いたでしょう?さっ、お上がり」
「はい!」
俺は元気よくそう返信をすると、ばあちゃんと手を繋いだまま家の中へと入って行く。
こうして数日の間、母様の実家での賑やかな暮らしが始まったのだった。
そして数日後─────────
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