女の子が主役な行事

「むぅ〜」


 ねむい、さむい、お布団の中でもふもふしときたい。


「はい、出来上がりっと。どうですか千代?」


「着物やー」


 こたつも仕舞われ梅の花が咲き始めた頃、喋り続けた甲斐あってようやく口も少しは回るようになった俺は、真っ赤な牡丹と可愛い兎の柄が入った赤い着物を着させられていた。


「あら珍しい……でも千代お姫様みたいでとっても可愛いわよ?」


「やーだー!」


 というかまずお姫様みたいって言われても嬉しくねぇ!


「でも今から新しく仕立てるのは時間とお金が…………」


 あー!違う母様お古がとかデザインがとかそういう意味じゃない!家の中で普段着として着るならまだしも、外出するのにこんなきっちりした着物は……


「動きにくいからやなのー!」


「あら、そっちだったのね。でもそればっかりは我慢なさい、今日はお祭りなんですから」


 え?そうなの?今初めて知ったんだけど。


「ふふっ、なんの事だか分からないって顔してますね」


 俺が首を傾げていると、母様はそう言って今日のお祭りの事を説明し初める。

 母様の説明によるとこの街では年に4回お祭りがあるそうで、その4回のお祭りでは各季節にちなんだ主役をメインにしたお祭りが開催される。

 そして今日あるというお祭りは春のお祭りで、その主役となるものは────


「おんなのこぉー?」


「そうだよ千代〜、今日はウチ達女の子が主役なのっ!」


「千保、もうちょっと落ち着きなさい。せっかくのお着物が崩れちゃう」


「はーいこー姉」


「ふふっ、すっかり千胡もお姉ちゃんですね」


 そう、女の子である。

 春のお祭りは着物で着飾った9歳までの、まだ年齢が2桁になっていない幼女達が主役のお祭りなのである。


 いやまぁ確かに今月ひな祭りあるし、ひな祭りと言えば女の子の日だけどさ、他にももっとあるじゃん春らしいのが!

 桜ー!とか梅ー!とかそんな花がさ!


 キャイキャイと盛り上がる俺の姉達を前に内心でそう足掻きつつ、結局着物を着させられた俺はむすぅとした顔になっていた。


「それじゃあ皆、お着物も着たしそろそろ行きますよ」


「「「はーい」」」


 んで姉達の話によると、これから俺達は公民館に行って、母様やおばさん達に髪を結って貰いお化粧をされたりした後に街を練り歩くそうだ。


「私達の家の区間には千代と同い年の子は礼二君しか居ないけど、今日は街中の女の子が集まりますし千代にも女の子のお友達出来るかもしれませんね」


「ほんと?」


 女の子の友達とか面倒くさそうだから割と勘弁願いたいんだけど。


「ほんとですよ、よっこらせっと。さ、皆早い所公民館に行って混む前におめかしして貰いましょう」


 あ、これ母様俺の勘弁して欲しいの「ほんと」を期待の方の「ほんと」と勘違いされてらっしゃる…………まぁもういいけどさ。逃げられないし。


「千代どうかした?」


「んーん!ちょっとびっくりしただけ!」


「あら、ごめんなさいね。それじゃあ行きましょうか」


「「「おー!」」」


 そうして、俺は母様に抱っこされ姉達と共にまだ日の出たばかりの肌寒い川辺りを、公民館へと向かって歩いていくのだった。

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