無知を演じる、算数の為に
「ふあぁぁぁ…………」
よく寝た…………とはいえ、まだ外は真っ暗だな。
「…………おみず……」
夜中に目が覚めてしまった俺は、横で母様が眠っているのを確認しつつ目をゴシゴシと擦りながら起き上がり、水を飲もうと台所へ向かう。
すると途中、居間の襖からうっすらと明かりが漏れている事に気がついた。
この時間に明かり?誰か起きてるのかな……
「だれー?」
「ん?千代か、どうしたこんな時間に。便所か?」
「んーん、のどかわいたの。とーさまなにしてたのー?」
「父様は今お仕事をしてたんだ」
「おしごとー?」
雑貨屋だから仕入れとか、経費、在庫確認とかかな?
「そうだぞー、いーよっこいせっと」
「おー」
「はははっ、千代も重くなったなぁ」
父様は俺を持ち上げて膝の上に乗せると、そう言って何をしていたか子供が分かるよう、とても噛み砕いた丁寧な説明をしてくれた。
「千代は物覚えがいいなぁ〜偉いぞ〜、凄いぞ〜♪」
「えへへ〜♪」
まぁだいたいは前世で習ったやつと管理方法は同じだったし、ネットが普及してない分こっちの方がそういった手続きは面と向かってできるから楽そうだ。
「千代にはそういう才能があるのかもしれんなぁ……そうだ!せっかくだし千代、算数やってみるか?」
おぉ!暇つぶしにもなるからそれは是非ともやりたいが────────
「さんすう?ってなーに?」
ここはぐっと我慢して怪しまれないようにする為に、あえてまだ算数を知らない3歳児を演じるのだ……!
くくくと内心俺が黒い笑を浮かべている事など知らず、娘に頼られて嬉しいのか顔をほにゃあっと緩ませた父様は、今度は算数を3歳児が分かるように説明をしてくれた。
「どうだい?興味あるかい?」
「あるー!」
無論即答もちろん即答!
「そうかそうか!さて、それじゃあ今すぐ教えてあげたい所だが……時間も時間だし、それは明日にして今日は寝ようか」
「えー」
今すぐ手を出せるわけじゃないのかぁ、残念。
「明日教えてあげるし、父さんも一緒に寝てあげるからね?それにお布団まで抱っこしてあげるから、今日はゆっくり眠りなさい」
「はーい」
「よしよし、千代はいい子だ」
まぁ正直また少し眠くなってきてたし丁度いいか、それになんだか父様も上機嫌みたいだしね。
「んんぅ……」
「ははは、やっぱりおねむだったか」
「んー…………」
「さっ、布団についたことだし今はゆっくりおやすみ、千代」
そうして俺はいつもの様に父様と母様に挟まれるような形で、これまたいつもの様にシャチのぬいぐるみに抱きついたままもこもこの毛布に包まれ眠りについたのだった。
そして翌朝──────────
ーーーーーーーーーーー
「はぁうぁぁあぁぁぁ…………」
「あんまり気にしないの千代、誰でも小さい時1度はやっちゃう事なんですから」
「でもぉ〜…………」
身体年齢はそんなことしてしまってもおかしくない3歳でも、中身の成人男性としてはこうとてつもなく来るものがあってですね母様。
着替えを済ませた俺は母様にそう慰められながら部屋の隅で体育座りして、そうグズりながらチラリと顔を上げて庭に干してある布団を見る。
そこに干してある布団には大規模な世界地図が描かれていて、それを見た俺はもう一度はぁとため息をついて顔をうつむける。
「ほら、いつまでも落ち込まない。今日は浩さんに算数教えてもらうんでしょう?」
あっ!そういやそうだった!
「とーさまー!」
「うおぉっ!?どーした千代〜」
「さんすうおしえてー!」
「お!いいぞー!」
母様にそう言われ、トテトテと可愛い足音を響かせながら廊下を走って居間まで行き、居間に居る父様に俺は飛びついたのだった。
「千代ー、それに浩さんもー、お勉強やる前に朝ご飯食べて下さいねー」
「「はーい!」」
「ふふふっ、ほんと私の家族は可愛いわ」
そうして今日も平和な日が始まるのだった。
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