子供の急成長

「ただいまー」


「あら、浩さんのおかえりね。千代出迎えて来てくれませんか?」


「あい!かーさま!」


 お出迎えお出迎え!元気いっぱいに3歳児っぽく!


 そんな事を思いつつ、あれから数年が経ちいよいよ三歳を目前とした俺は、肩まで伸びた髪の毛とぶかぶかの袖を揺らしながらてくてくと小さい足を動かし、玄関へと向かう。


「んっしょ、んっしょ、んっしょっ……」


 だいぶ大きくなったとはいえ口は上手く回らないし、力は全然無い……これは体が女の子だからか、それとも単にこの体が弱いだけなのか…………ととっ、お出迎えに行かなくては。


「とーさま!おかーりなさい!」


「おー、ただいま千代。今日もいい子にしてたかい?」


「あい!ちよいーこしてた!」


「おー、偉いぞ千代〜、そんな偉い子にはお菓子をあげよう。後で一恵さんにバレないようこっそり食べるんだよ?」


「わー!ありがとーとーさま!」


 これはグミかな?いやぁ、父様はお菓子くれるから本当に好きだなー、でもバレたら没収されるから母様にはバレないようにしなきゃ。


「おかえりなさい浩さん」


「うおぉっ、一恵さんいつの間に……こほん、ただいま」


「はい、おかえりなさいませ。千代、その手に持ってるの後で母様に渡しなさいね?」


「あ…あーい……」


 ニコッと威圧感のある笑顔を浮かべる母様にコソコソと逃げようとしていた俺がグミを渡すと、母様は偉い偉いと言うように俺の頭を撫でて抱え上げてくれる。


「ほんと浩さんったら、千代はもう歯磨きまで済ませたんですから。これは明日あげてくださいね」


「あはは、済まないね。そういや、千代はもう1人で歯磨きしてるんだったね」


「あい!ちよできるよ!」


 まぁ最後に母様にもう1回磨かれてるんだけどね。


「千代は偉いなぁ、皆は?」


「千胡はお絵描きを、千保と弘紀はテレビを見てましてこの後お風呂に。お義父さんはさっきまで千代と遊んでてくださってました」


「本当に父さんは千代が好きだなぁ。それじゃあ今日は俺が千代をお風呂に入れておくよ」


「ありがとうございます。千代をお願いしますね」


「とーさまといっしょー?」


「そうですよ。綺麗綺麗して貰いなさい」


「あい!」


 そう元気よく返事を返し母様に床に降ろされた俺は、てくてくと歩いてお風呂の準備も兼ねて自分と母様の部屋へと戻ると、ひとつため息をつく。


「ふひぃー、こどももらくじゃねーぜ」


 というかまず、まだ口が回らないから喋るだけでも大分体力を使うんだよな。それに正直あのテンションを維持するのと、自分の名前を一人称に使うのはキツイっす。

 まぁそれでも────────


「やらねばならぬのだ」


 俺がここの家の家族である為には。まぁその為にもまずは……


「おふろのじゅんびっ!」


 やべぇ、このテンションが素になって来てる。


 そんな事を思いつつ冷や汗をかきながらも、いつも通り風呂に入る前に寝間着用の浴衣ともこもこしている丹前を用意している所でふと気がつく。


 そういやもう後数日で俺も3歳か、3歳になれば外にも出れるし、改めてこの時代がどんな時代かを知る事が出来るんだが……

 というかそもそも、3歳になるまで家の中にしかいちゃいけないっていう、この家?地域?のしきたりがよくわかんないよな。

 んまぁきっと迷子になったりとかそんな事にならない為だろうけど。


「んんん……ふぁあぁぁぁ……」


 …………眠い……子供は体温が高いからか、少しでも暖まると眠くなるのが………………まだ、父様のご飯あるし…少しくらい……………


「みゅう…………」


 ーーーーーーーーーーー


「千代ー、お風呂入ろうかー……おや?」


「すー……すー………ふぁむ……ちき…」


「……寝ちゃってたか…今日は体を拭くくらいにして寝かせといてあげよう。というか「ふぁむちき」?一体なんの夢を見てるんだか」


「にへへ…………」


 この日はぐっすりと寝てしまった俺は、この後の日々も何事も無く過ごし、そして3歳の誕生日を迎えた。

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