立ち上がれ赤ん坊
時は流れ、令和の時代よりも遥かに涼しかった夏は過ぎ、しんしんと雪が振り積もる程寒くなってきた頃、流石にこの体と状況にもなんとか慣れた俺は───────
た…立て……!……立つんだ俺!今立たなければいつ立つというのだ!
「うぅぅぅううぅうう!んあー!」
頭の中に某ロボットアニメの初代オープニングの曲が流れる中、新聞を読んでいる父の横で未だふにゃふにゃな俺はちゃぶ台の足に捕まって何とか立ち上がろうとしていた。
「…………ん?この声は千代か。珍しいな、千代が声を上げるなん……てっ!?ひ、一恵さんちょっと来て!」
ん?なんか騒がしいな、何かあったのか?だけど今そっちに気を割く程の余裕は─────
「うぅあっ!」
ないっ……よっしゃぁぁぁあああ!ふはははは!立った!立ってやったぞ!人間は進歩するのだっ!
「「「「「「おぉー!」」」」」」
「うぅあ!?」
うおぉおぉ!?びっくりした!なんかいつの間にか家族全員集合してるんだけど……ってあっ!
何とか立つことに成功したものの、俺はいつの間にか集まっていた家族の声に驚いてちゃぶ台の足から手を話してしまい──────────
「「「「「「危ない!」」」」」」
「だうぅあぁ」
あー……びっくりした…………二重の意味で。
「「「「「「ふぅー……」」」」」」
何とか畳に倒れるギリギリのところでお爺さんの腕に抱かれ事なきを得たのだった。
「いやぁー、危なかった危なかった。ありがとう父さん」
「お義父さんありがとうございます!私の不注意で……心配おかけして申し訳ございません」
「いやいや、気にしなさんな。千代が初めて立ったんだ、感動もするさ。それに子供の成長に感動しない親なんて居るものか。な、千湖」
「はい!そうですよ母様!アタシも感動しましたもん!ね!千保!」
「うん!ちほもすごいっておもった!にーさまも声出してたもん!」
「ま、まぁな……」
なんか少しだけど……照れるな…………うん。よし、せっかくだしここでお披露目してしまうか。
そんな風にして我が事のように喜ぶ家族を見て、俺は調子に乗ってそんな決心をすると下準備を始める。
「むぅぅううぁあう」
口の回りもOK、それじゃあ息を大きく吸ってすって──────────
「ん?何か言いたいのか千代」
「ははは、父さん流石の千代もまだお喋りは────────」
「じぃー……じ」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
ん?ダメだったか?ならもう一度……今度は元気よく──────────
「じぃーじ!」
「お、おい浩……聞いたか…?い、今千代がじぃじって俺の事を……」
「勿論!まさかお喋りまで出来るようになってるとは……!一恵さん!今日の夕飯は赤飯を!」
「はい!買い物行ってきます!」
おぉ……何だか大事に…………というかそんなに泣くほど嬉しかったのかお爺さんや。少なくとも4人目の孫でそこまで感動せずとも───────
「孫の初めての言葉で俺が呼ばれるとは……!息子娘に呼ばれるのとは違った嬉しさがあるなぁ」
「弘紀も千湖も千保も今まで初めては最初に呼んだのは俺か一恵さんだったからね。そこは少し悔しいけど、おめでとう父さん」
なるほどそういう事だったのか。
父様母様と比べたらじぃじなら言いやすそうと思ってお爺さん選ばせて頂きました、すいません許してつかぁさい。
「おう、ありがとうな浩。こりゃあ七五三の時は綺麗なヤツ着せてやらんとなぁ」
oh……それは勘弁して頂きたい…………なんせ中身は男なもので。
「きっと千保や千湖にも負けないくらい可愛く育つだろうしね、今から楽しみだ」
「たうぁあ!」
そうして俺はあっという間に1歳を迎え、そのまま自分でも驚く程の速さで時は流れ──────
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