赤ん坊としての楽しみ

 ふーんふふーん♪


「うーあ!たぁーうぅ!」


「そうか千代、そんなに楽しみか」


「あぁうぅぅう!」


 そりゃもちろん!


「よーしよし、ええ子だからあと少し大人しくまっとれよー」


「たぁい!」


 俺を膝に乗せたお爺ちゃんにそう言われながら頭を撫でられ、俺はこの姿になって初めてと言っていい程テンション高く元気に返事を返す。


「千代は本当に大人しくてええ子だなぁ。弘紀も千湖も千保もこれくらいの時はいっつも泣き喚いてたのに、千代ときたら少しグズるくらいしかせんからなぁ」


 んまぁ赤ん坊は泣くのが仕事ですから……俺は泣きたくないけどな、プライドがあるから。くだらないと思うかもだが、これを捨てた瞬間俺は終わる気がする。


「それにしても千代が産まれてからもう6ヶ月か、赤ん坊の成長とはなんとまぁ。この家で産まれた赤ん坊を見るのももう7回目というのに、本当何度見ても早いもんだ」


 ほー、俺は産まれてから6ヶ月だったのか。となると今月は7月だから、俺は1月産まれって事になるか。

 というかこのお爺さん今7回目って言わなかったか?

 俺を含めて孫が4人だから………子沢山孫沢山だなぁ……いや、元の俺の時に昭和じゃ割と珍しくはないって聞いたな。

 お爺さん自体は何人兄弟なんだろうか?すっげぇ多そう。


「うぅぅあ?」


「はっはっはっ、まだ千代には分からんか。なぁに、じぃじの独り言だよ。気にしなさんな」


「うぅうぅぅうう」


 くっ、言葉が伝わらん……まぁいい、とりあえず今は──────


 そう、何故俺がここまでテンションが上がって居たのかというと、それは──────────


「はーい、出来ましたよー」


「たあぁあう!」


「あらあら、目を輝かせちゃって。お義父さん千代の面倒ありがとうございます。千代はいい子にしてました?」


「おう、暴れたりも嫌がったりもせんで大人しかったぞ。なー千代」


「あう!」


「ふふふっ、偉いわね千代〜。それでは千代に離乳食を上げますので」


「ん、よーく味わえよ千代」


「おぉぉおうぅう!」


 よし来たァ!


 今から初めて離乳食を食べるからである。

 この姿になって約3週間、食べ物は当然ミルクばかりで、流石の俺も前の時代で食べていた食べ物が恋しくなって来てた頃、丁度晴れて歯の生えてきていた俺は離乳食に挑戦することになったのだった。


 なんで離乳食如きにそこまでテンションが上がるのかって?

 味のない牛乳だけで1ヶ月も生活してみろ!腹は満たされても心が満たされぬわぁ!という訳で味があるであろう離乳食に俺はテンション爆上がりなのだよ!


「うぅあ!あぁうぅ!」


「ふふふっ♪はい千代、お口開けてー」


「あーー」


 ぱくっ。


 お…………おぉおおおおおぉぉおおお!

 味だぁ!味があるぞぉー!味の方は美味いとは言えないけど味だぁ!なんだろう……カルチャーショックというか、人生観がリセットされていく……


「どう?美味しい?」


 正直美味いかどうかで聞かれると………………っといけない、せっかく作ってくれたんだ、いい反応を返さないと……の前にちゃんと飲み込んでから。


「あぁう!」


「そうか、美味いか!よかったな、一恵さん」


「はい。しかも零すことなく綺麗に食べてくれて……きっと将来素晴らしい女の子になりますよ」


 それは堪忍願いたい。少なくとも中身はコレなのでね。でもまぁ今は──────────


「だな。それじゃあ今度はワシが……ほら千代や、お食べー」


「あーー」


 この久しぶりに味わうことの出来た味を堪能するとしよう。


 そうして俺はニコニコと笑顔を浮かべる2人に囲まれながら、口に運ばれてくる味のある食事を堪能するのだった。

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