第六章 エピローグ ~妹の決心~
1
戦いが終わると、Aの妹はすぐさま兄のもとに駆け寄った。
「お兄さま、大丈夫ですか? お怪我はない?」
Aは妹に答えて言った。
「ああ、助かったよ。祖父に助けられた。妹よ、おまえが祖父をここに連れてきてくれたのか?」
妹は答えて言った。
「はい、わたくしがおじいさまを連れてきました。これは男の決闘だとか、お兄さまにとって試練だとか、へりくつをこねて嫌がるおじいさまの手を引いて、お兄さまのもとにおじいさまを連れてきたのは、このわたくしです。そうです。わたくしがおじいさまをここに連れてきました」
Aは言った。
「ああ、そう……。それは、よかった。おかげで命拾いしたよ。しかし、兄さんは、わたしをかばって」
Aと、妹と祖父、それからマーカスとその部隊の者は、全員目を閉じて、戦死したAの兄に黙とうをささげた。
魔女の兵の者は、とっくの昔に逃げて、その場にいなかった。Aはマーカスとその部隊に命じて、本隊に合流するよう言った。
マーカスはAにお辞儀をして、部下を連れて引き上げて行った。こうして、その場には、Aの祖父と孫たちだけがとどまった。
しばしの沈黙の後、Aの妹が言った。
「お兄さまにお伝えしたいことがありまして。妹の話を聞いていただけないでしょうか」
「いいよ。話してごらん」
妹はこう話し始めた。
「魔女って、わたくし、生まれて初めて見たのですけれど。ああいう感じなんですね。見た目では、わたくしたちと、大差ないように見受けられます。わたくしはそう思いました。もちろん、わたくしは、あの魔女がどういうことをしたか、知っています。わたくしはそれをネットの掲示板で見ました。魔女って、ふしだらなんですね……。わたくしの二倍ないし三倍と言わず、十倍、百倍、千倍ほどふしだらな人です。わたくしはそう、ネットの掲示板に書かれていることを見て思いました。そして今日、わたくしは、あの魔女である女が、おじいさまの火で、焼かれるのを見ました。お兄さまもご存じのように、わたくしも、あの女と別の意味で、炎上した女ですが、あの魔女である女は、本物の火で焼かれたのです」
そして、妹はこう続けた。
「お兄さま。わたくしは、いまもなお、お兄さまから絶交された身です。ですが、わたくしは今日、おじいさまに焼かれたあの魔女である女を見て、さとりました。正直に申しますと、わたくしはお兄さまが、なぜあれほどわたしに激怒し、わたくしと絶交なされたのか、あのときは、わかりませんでした。しかし、わたくしは今日、おじいさまに焼かれたあの魔女である女を見て、はっきりさとったのです。わたくしも、ことによると、あの魔女である女のように、魔女の身と化して、おじいさまがあの女になされたように、本物の火でもって、焼かれ、地獄に落とされたかもしれません。そう思うと、わたくしは、これまでの自分をあらためようと、決心できたのです。わたくしは、今日かぎりで、ふしだらな行いをあらためます。わたくしは、自分の未来に思いをはせ、わたくしが妻として、生涯にわたって連れ添うであろう、まだ見ぬ殿方と、その殿方とのあいだにできるであろう、わたくしの子供たちのためを思って、わたくしは、今日かぎりで、ふしだらな行いを慎むと、お兄さまとおじいさまの前で、固く誓います。お兄さま、わたくしの眼を覚まさせてくださいまして、本当に感謝いたします。おじいさまも、本当にありがとうございました」
祖父はAに言った。
「Aよ、聞いたであろう。妹のことを、ゆるしてあげなさい。そして、絶交なんて子供じみた真似は、今日かぎりにしなさい」
Aは言った。
「祖父よ、わかりました。あなたのおっしゃるとおりにいたします。妹よ、あなたとの絶交は、たったいま解消しました。あなたはわたしにとって、たった一人の妹です。あなたと死ぬまで縁を切るなどと言ったことを、わたしはあなたに謝罪します。勝手な言い分ですが、あなたさえよければ、どうか、わたしのことをゆるしてください。そして、もとの仲の良いきょうだいに戻りましょう」
「お兄さま、本当に、わたしのことをゆるしてくださいますか?」
「はい。もとのきょうだいに戻りましょう。そうです。あなたは死ぬまでわたしの妹です。あなたはいつだって、わたしのかわいい妹でした。多少、金にがめついところはありますが、それさえ目をつぶれば、わたしたちはきっとうまくやっていけるでしょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます