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 A軍団の兵士たちがいささか喜劇じみたいくさに従事していた頃、魔女である女をバリアスの丘に追いつめようとしていた女剣士バーカン・マーカスは、はるかにシリアスな局面におかれていた。

 マーカス率いる精鋭部隊は、A軍団とユキトの戦車部隊がサバトに集まった群衆を魔女から引き離すと、ただちに行動を開始し、トラックが来た方角から突撃してきて、魔女をとりまく親衛騎団と激しくやりあった。

 女剣士バーカン・マーカスは、彼女の部下とともに、竹刀で敵の男の股間を容赦なく突いた。突かれた敵の兵士は、悶絶し、地面を転げ回り、なかには、泡を吹いて気絶する者もあった。

 女剣士バーカン・マーカスは、部下の先頭に立って言った。

「突け! 突いて、敵をつぶせ! つぶせ、つぶせ、つぶせ! おまえたち、つぶれるまで突け! こんなどうしようもない男どもに、子孫など残させるな! それが世のため、人のためというもの! おまえたち、わたしのあとに続け! 突いて、突いて、突きまくれ!」

 これは、彼女のためを思って言うのであるが、普段の彼女は、こんなではない。普段の彼女は、いたってやさしい女性である。

 今日の彼女は、実は、非常にいらだっていた。それは、例のユキトの戦車部隊の件である。彼女は、ユキトの秘密部隊の内実を今日まで知らされていなかった。なぜなら、彼女に知らせれば、絶対に反対するに決まっているからである。セクシーな格好をした女性をおとりに使って敵を搖動するなど、フェミニスト・グループの代表であるマーカスには、口が裂けても言えなかった。

 マーカスは、ユキトの戦車部隊を見て、唖然とした。そして、強い憤りを覚えた。しかし、彼女は、これも作戦遂行のためだ。わたしに内緒にしていたのは癪に障るが、その件は帰ってから問題にするとして、いまは敵を殲滅することだけを考えよう。そう自分に言い聞かせて、心に降り積もるわだかまりを竹刀の力に変え、男どもをこれでもかと突きまくったのである。

 女剣士バーカン・マーカスの獅子奮迅の活躍により、魔女をとりまく親衛騎団は、サバトの会場である場所から出て、じりじりとバリアスの丘に向けて後退しつつあった。

 魔女である女は、親衛騎団の男の兵たちが敵の前にばたばたと倒れて行くのを見て、後退速度をはやめながら、兵の位置を入れ替え、ふだんは魔女である女の後方にいて見張り役をする女の兵を敵の前に出した。

 女の兵は、竹刀で突いてつぶれるものがなかったし、なにより、同じ女性なら、マーカスが攻撃の手を緩めると踏んだのである。しかし、これはむしろ逆効果だった。

 マーカスは敵の女の兵に対峙して言った。

「女だからって、わたしが容赦するとでも思うか? そんな考えだから、いつまでたっても、この国から男性優位の思想がなくならないのだ。よいか、わたしの部下たち。おまえたちも、敵が女だからって容赦するな。女も男もない! わたしたちは同じ人間だ! だから、おまえたちは、容赦なく突け! ただし、女の股は突くな。女の股には、突くものがないからである。だから、もっと突きやすいところを狙って突きなさい。行くぞ! わたしのあとに続け!」

 そのとき、マーカスの部隊の後方にいたAは、しもべの一人を呼んで、前線にいる彼女に次のように伝令させた。

「予定通り、敵の兵の数が五十を切り、十分少なくなったら、進撃を止めて、陣を張りなさい。そして、敵の動きを警戒しながら、余の到着を待ちなさい」

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