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 Aの兄がかれらの輪に加わったことにより、魔女である女とその周囲に関する多くの情報がもたらされた。これにより、Aによる魔女討伐のための準備は、一気に進捗した。

 A腹心の部下で、作戦本部長のユキトは、Aの兄からもたらされた情報をもとに、魔女である女とその周囲の人たちの行動パターンを分析し、魔女討伐の策を練った。

 A軍団長に任命されたガルガンチュアは、魔女討伐のための兵士として、Aのしもべたちが激しいいくさに耐えられるよう、かれらを鍛え上げ、自身も日々、厳しい訓練にいそしんだ。

 こうして、数か月の時が流れた。

 その日も、明け方近くまで、Aの兄は斥候として魔女のサバトに潜り込んでいたが、彼はアジトに帰還すると、彼の弟のところに来て、こう言った。

「弟よ、よく聞きなさい。わたしは情報をつかんだ。あの魔女である女は、次の満月のとき、エリヤの荒野で、サバトを決行するだろう。そこは、人里離れた土地で、魔女の軍とわれらが決闘するには、うってつけの土地だ。弟よ、はっきり言っておくが、いまのわたしたちの戦力で、あの魔女の軍を打ち破ることは、不可能に近い。だが、作戦を立て、あの魔女を一人にすることができれば、わたしたちにも勝機はある。あなたの決戦の意志は固いようだから、わたしは、あなたに進言して、あなたを魔女に勝たせよう。弟よ、わたしはあなたにこう進言する。魔女が来る前に、エリヤの荒野に、ひそかに軍隊を展開して、魔女の軍を討ちなさい。そして、あなたは魔女である女を滅ぼしなさい」

 Aは兄に言った。

「兄よ、感謝します。あなたのはたらきに、わたしは、わたしとわたしのしもべたちを代表して、深くお礼申し上げます。ただし、あなたは、その決戦場には、来ないでください。あなたはわたしたちのアジトにとどまって、決戦の行方を、陰から見守っていてください。あなたには、後日、褒美をとらせるでしょう。その褒美とは、あなたの大好きな金のことです。あなたが褒美として手にする金は、十万をくだりません。わたしはそのことをあなたに確約します。なんなら、念書を書いてさしあげてもいいです。ただ、あなたがわたしの命にそむき、決戦場に姿をあらわしたならば、あなたは、いまわたしが約束した金を、わたしから受け取る機会を永遠に失うでしょう。それでよろしいですか?」

 兄はAに答えて言った。

「弟よ、わかりました。その条件で同意しましょう。わたしはあなたたちのアジトにとどまって、決戦の行方を陰から見守ります。わたしは決戦場には姿をあらわしません。なんなら、わたしも念書を書いてさしあげてもいいです。わたしは自分が手にするであろう十万を下らない金が惜しいですから」


 兄を家に帰すと、さっそくAは、かしらたちを集めて、秘密の作戦会議を開いた。

 集められたのは、作戦本部長のユキト、A軍団長ガルガンチュア、それから、ガルガンチュアの副官に任命されたヨーゼフ・マルクスという男。

 この男は、ネオの後継者として、Aによって新たにかしらに指名された男で、オーストリアの作曲家、ヨーゼフ・マルクスの作品をこよなく愛することから、このあだ名がある。

 この男は、ネオの元部下で、パロの下宿を調べていたAたちに、「誰がパロを殺害したのか、突き止めた」と言って報告してきた、あの男である。彼はAよりその功績を高く評価され、新たなかしらに抜擢された。

 なお、彼の周囲の人たちは、彼のことを、おもにヨーゼフと呼んだが、Aはなぜか省略せずに、ヨーゼフ・マルクスと呼んだ。

 Aのわきには、女剣士バーカン・マーカスがいた。

 彼女は、剣道の使い手で、どうしてその名で呼ばれるのかは不明だが、Aの輪の中にあって、魔女である女に激しい憎悪を燃やす女性たちの一人だった。彼女はAの教団でフェミニスト・グループの代表を務めていた。

 概して、Aの教団の女たちは、魔女である女にかしずく卑しい男どものことは、正直、どうなってもいいと思っていたけれども、彼女らは、魔女である女を、女性の尊厳を傷つける行いをするものとして、はげしく憎んだ。

 また、Aの考えでは、魔女討伐のとき、前線士官として女剣士バーカン・マーカスを置けば、少なくとも女である彼女だけは、魔女に魅了されて前線で敵に寝返るようなことはないと踏んだのである。

 Aは集まった者たちに言った。

「余は、次の満月の夜、エリヤの荒野で、魔女である女を滅ぼすであろう。軍団長ガルガンチュアは、副官のヨーゼフ・マルクスとともに、エリヤの荒野の岩陰にひそみ、夜になるのを待って、魔女の軍勢に奇襲を仕掛け、これを混乱させる。そして、ユキトの秘密部隊が、混乱した敵軍の兵士を搖動し、敵兵の大部分を魔女のいるところから遠方に引き離すだろう。魔女のもとには、魔女の親衛騎団のみが残り、そこに女剣士バーカン・マーカス率いる余の精鋭部隊が追い打ちをかけ、わが軍はついに魔女である女をバリアスの丘に追いつめるだろう。そこから先は、余と魔女とのスペシャル・バトルである。よいか? おまえたちは、敵兵を魔女のもとから引き離すことに全力を注げ。決して、うぬらが魔女を討とうなどと功名心を起こしてはならぬ。魔女である女に、普通の人間は絶対に太刀打ちできぬ。

 魔女を討とうとする者は、魔女である女の前になすすべなく滅び、その魂は永遠に荒野の闇をさまようことになる。だから、おまえたちは、魔女である女には絶対に手出しするな。おまえたちが魔女の前から敵兵を退け、魔女をバリアスの丘に追い込んだら、あとは余にまかせろ。余が魔女である女を討とう。そうして、余は、亡きパロのために、魔女である女を滅ぼし、これを地獄に送ろう」

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