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 Aのしもべたちのかしらの一人、ネオは、人一倍真面目な性格の男だったので、Aの特命を受けて、斥候として、サバトと呼ばれる、魔女の眷属どもの集会に、信者のふりをして、潜り込んだ。

 サバトが行われるのは、街のにぎやかな場所の裏道にある、建物の地下。そこは、悪人共の巣窟、猥褻な人たちのたまり場、隠微な匂いのする所。その他、なんとでも呼べばよろしい。

 夜。そこに集うもろびとの前で、魔女である女は、高い所に立って、服を脱ぎ、下着だけになって、淫靡な人たちの眼をひとしきり楽しませたら、下着をとり、全裸になった。

 うぶな男であるネオは、最初、魔女である女のからだを直視できず、うつむいていたが、この場所にあって、ひとりだけ虚無僧のように、直立不動で、うつむき、真面目くさっているのも、怪しまれるだけだろうと思ったので、彼も魔女である女の姿態を見た。たちどころに、彼の眼はそこに釘付けとなり、しまいには、彼は魔女である女の熱心なファンとなった。

 さて、何かが一段落つくと、魔女である女は、集まったもろびとの前に進み出て言った。

「あなたがた、わたくしを賛美しなさい。あなたがたは、地獄があるかもしれないと思いなさい。あなたがたは、ご自分が天国に逝く資格があるとでもお思いですか? 笑止。笑うべきこと。そう思う方には、わたくしがへそで茶を沸かして差し上げます。よろしいですね? いいですか、よく聞きなさい。あなたがたは、地獄があると思い、あなたがたの行く末は、きっと地獄だろうと思いなさい。そうなれば、どうするか決まっていますよね? いまのうちに、地獄の眷属どもに、賄賂を贈って差し上げなさい。それは、あなたがたが地獄に落ちて後、地獄の眷属どもに、よきように取り計らってもらうためのものです。よろしいですか? あなたがたがそれをすることができるのは、あなたがたが生きているあいだだけです。よろしいですね。あなたがたがそれをできるのは、いまこのとき、あなたがたが生きているいまこのときしかないのです。

 いいですね? 考えてみてください。人間は、ひどく脆い、弱っちい生き物ですから、いつ死んでしまうか、わかりませんよね? そうです。あなたがたは、いま、生きているこの瞬間を大事にすべきです。あなたがたは、いま、するべきことをしなさい。地獄の眷属どもに、賄賂を贈りなさい。いまのうちに、することをして、すべきことを済ませなさい。見よ、この恐るべき、しようもない世界。少しの謎めいたところもない、つまらない世界。あなたがたは、このばかげた世界の秩序には、今後一切関わりません。もともとそれは、あなたがたと関わり合いのないことなのです。あなたがたが亡くなって以後、あなたがたがそこに逝くであろう、永遠の世界の秩序を想いなさい。あなたがたは、それに想いをはせなさい。あなたがたは、天国には逝かれません。あなたがたが逝くのは、永遠の地獄です。よろしいですか? わたくしがいま言ったことを、きちんと胸に刻み、わたくしの前に跪きなさい。

 わたくしを拝み、これでもかと拝み倒し、現世の快楽にまみれ、欲望を満足させたら、わたくしと一緒に来なさい。わたくしが、あなたがたを導きましょう。この世の先にある、あなたがたの未来へ。それは、あなたがたの真実の居場所です。あなたがたの魂が安住すべき、あなたがたの故郷です。わたくしがそこに、あなたがたの手を引いて、連れて行って差し上げます。だから、わたくしについてきなさい。魔女を賛美しなさい。悪魔を崇拝しなさい。わたくしどもの眷属となれば、あなたがたは、支配される側から、支配する側に回ることができる。なんと素晴らしいアイデア。素敵なことの前兆。そうです。オーメン! あなたがたは、わたくしと出会えたことに、この途方もない幸運に感謝なさい。一緒に行きましょう。わたくしと、あなたがたの未来へ。幸多き未来へ。そうです。あなたがたの行く末に、幸多からんことを。ただ手をこまねいて、いたずらに祈るのではなく、目の前にある幸を、その手でつかみ取りなさい。わたくしたちは、ともに羽ばたきましょう。あなたがたと、わたくしの、幸多き未来へ。この暗く、欲望渦巻く世界の彼方へ。祈りなさい。素敵なことの前兆。オーメン!」

 集まったもろびとは、魔女である女に呼応して、「オーメン」と叫び、それ以後も、建物の外が白みかけるまで、その淫靡な夜会は続いた。

 この日以来、Aのしもべたちのかしらの一人であったネオは、完全に魔女の虜となって、Aのもとに再び帰ってくることはなかった。

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