第三章 パロの死んだわけ

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 パロが死んだ。

 パロは下宿で首をつって死んだ。

 遺書らしきものは、見つからなかった。

 警察が来て、パロの下宿を引っ掻き回して調べたが、価値あることは何もわからなかった。むろん、パロのパソコンのハードディスクの中にあるものも調べたが、価値あることは何もわからなかった。もろもろの状況から、警察は、パロの死を自殺と断定して、捜査を打ち切った。

 要するに、パロの死んだわけは、誰にもわからなかった。

 Aはパロの遺体が葬られた墓の前で、声を上げて泣いた。Aと一緒にいたパロの友人たちも、声を上げて泣いた。

 Aは手の中のあめんどうをにぎりしめて言った。

「パロのあめんどうが、パロの形見になってしまった!」

 Aとパロの友人たちは、パロの墓の前でひとしきり泣くと、パロの墓を後にして、急行列車で帰った。


 ところで、パロの死後、警察がまだパロの死について調べていた頃。

 Aは喫煙所の悪魔とその眷属を討った。喫煙所でAに平伏した男は、その後も、悔い改めることなく、Aにしたのと同じことを、他の善良な人たちにも繰り返したからである。

 あるとき、Aはその男に言った。

「どうしてあなたは、悔い改めないのか? あなたは一度、わたしの前に、平伏したというのに。それは、ただ悔い改めた素振りをしただけだったのですか? 見よ。ここに二つの道がある。ひとつは、あなたが改心して、悔い改める道。もうひとつは、あなたが滅ぼされる道。ひとつは、『はい』。もうひとつは、『いいえ』。あなたが選んでください。『はい』は、善い前兆。『いいえ』は、悪い前兆。あなたは選ぶことができる。しかし、あなたは悔い改めないだろう。そして、あなたはわたしによって滅ぼされるだろう」

 その男は、口で『はい』と言い、行動で『いいえ』を示したので、Aはその男を滅ぼした。その男に追従する女や男たちも、ことごとく討った。かれらは、最も下等な種族とはいえ、悪魔の眷属であった。


 さて、Aが喫煙所の悪魔とその眷属を滅ぼして後、Aのもとには、彼を主と呼んで慕う者たちの群れができた。三人の男が群れのかしらとして、Aに仕えた。あだ名をそれぞれ、ネオ、ユキト、そしてガルガンチュアという。

 ネオとユキトは、それぞれ彼らの本名からとったあだ名である。ガルガンチュアだけが本名からとったあだ名ではなかった。

 彼がガルガンチュアとあだ名されるのは、彼がフランソワ・ラブレーの愛読者だったからで、彼自身は、自分のことを『パンタグリュエルのガルガンチュアの息子』と呼ばれるのを好んだが、あまりに長すぎるため、彼の周囲の人たちは、彼をたんにガルガンチュアと呼んだ。

 ちなみに、Aは、それでも長すぎると思ったのか、彼のことを、ガルとか、ガルガンとか、あるいは、ガルゴンと呼んだ。

 Aは三人のしもべたちに言った。

「パロの死んだわけを調べて、余に報告せよ」

 Aはパロより頂戴したあめんどうを、一つずつ、三人のしもべに手渡した。

 Aは彼らに言った。

「それは、余がパロより頂戴した、あめんどうの実である。それは、余がパロより友情のしるしとして受けたものだ。おまえたちは、おのおのそれを一つずつ食べて、自分たちの血と肉としなさい。余とパロとの友情のしるしが、おまえたちの血と肉となるのである。おまえたちは、余とパロの友情を心に刻んで、余と亡きパロのためにはたらきなさい。行って、パロの死んだわけを調べなさい。そして、結果を余に報告しなさい」

 それから、Aのしもべたちは、よくはたらいて、ほうぼうを駆けずり回ったが、パロが死んだわけは、まったくわからなかった。

 Aは、Aのしもべたちの報告を聞いて言った。

「おまえたちは、パロの死んだわけを突き止められなかった。おまえたちは、はたして、自分の眼でよく見て、パロが死んだわけを調べたのか?」

 ネオが、しもべたちを代表して言った。

「はい。主よ、しもべたちは、自分の眼でよく見て、努力してパロの死んだわけを調べましたが、ついにパロの死んだわけは、わからずじまいでした」

 Aは、玉座から立ち、しもべたちに言った。

「よし、余がパロの下宿に行って、見よう。余はどうしてもパロの死んだわけが知りたい」

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