3

 パロと別れてから、Aが廊下を食堂のほうに向けてしばらく行くと、Aは一人の女とばったり出くわして、廊下でこれとすれちがおうとした。

 ところで、その女はAと面識はなかった。

 だしぬけに、その女はAに言った。

「あなたの手の中にあるあめんどうを、一つわたしにください」

 Aは見ず知らずの女に言った。

「わたしの手には、あめんどうがたくさんあるから、あなたに分けてあげないではないが。わたしがあなたにあめんどうを恵めば、あなたはわたしに何をしてくれるのか?」

 女はAに答えて言った。

「いいえ、わたしはあなたに何もしません。あなたはどうしてそうケチケチなさるのです? あめんどうはあなたの手にそんなにたくさんあるというのに」

 Aは女に言った。

「あなたはわたしからあめんどうをただかすめとって、何もしないままここを立ち去るつもりなのか? あなたはこれまでそうやって、人の善意を食いものにしてきたのか?」

 女は言った。

「なんとおっしゃいます」

 Aは女に言った。

「あなたは欲深い女だ。あなたのような欲深い女は初めて見た。わたしの手にはいまあめんどうがたくさんあるが、あなたのような欲深い人には、わたしはこの手から一つもやらないだろう。仮に、わたしの手にあめんどうが、いまある倍の数あったとしても、あなたのような欲深い人には、わたしはわたしの手の中にあるあめんどうを一つもやらないだろう。仮に、いまある十倍、百倍もしくは千倍あったとしても、わたしはわたしの手の中にあるあめんどうを、一つもやらないだろう。一つくれてやれば、必ずもう一つと言い出す。そして、わたしの手の中からあめんどうがなくなるまで、あなたはわたしの手の中のあめんどうをむさぼるだろう。あなたのような欲深い人は、限度をわきまえないからである」

 女はAに言った。

「あなたはケチな男です。あなたのようなケチな男は初めて見ました。他の男どもは、わたしがくれと言わなくても、あちらのほうからわたしに、勝手にいろいろなものを貢いでくるというのに。他の男どもなら、仮に、彼らの手の中に、あめんどうが五つしかなかったとしても、それをわたしにくれることを拒みはしないでしょう。仮に、彼らの手の中にあるあめんどうが三つないし二つだったとしても、それをわたしにくれることを拒みはしないでしょう。仮に、たった一つだったとしても、仮にそれが、彼らが後で食べようと大事にとっておいた最後の一つだったとしても、彼らはそれをわたしにくれることを拒みはしないはずです。わたしはそのように確信します。だから、あなたもケチなことは言わず、あなたの手の中にあるあめんどうをわたしにください。たくさんくれとは言いません。一つでよろしいのです。わたしは、あなたが考えるような、欲深い女ではありません。あなたの手には、あめんどうがたくさんあります。本来なら、あなたはわたしに二つ、三つくれてもよいところを、わたしは一つで満足するのですから、わたしは欲深い女であるはずがありません。さあ、はやくあなたの手の中にあるあめんどうを、一つわたしにください」

 Aは女に言った。

「いいえ、あいにくですが、あなたに差し上げるためのあめんどうは、わたしの手の中に一つもありません。あなたはわたしからあめんどうをもらうのをあきらめてください。そして、すぐにでも、わたしの前から立ち去ってください。それとも、あなたはまだ他にも、わたしに要求するものがおありですか?」

 女はAに答えて言った。

「いいえ、あめんどうの他には、わたしがあなたに要求するものはありません。だからといって、わたしは、あなたがここに立っているうちは、あなたの前から立ち去らないでしょう」

 Aは女に言った。

「そうですか。それならば、わたしはいまからここを立ち去るので、あなたはどうかご随意になさってください。わたしにはついてこないでください」

 そう言って、Aはその女のもとを去った。

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